都市プランナーの雑読記 その74
佐々涼子『駆け込み寺の男 玄秀盛』ハヤカワ・ノフィクション文庫、2016.08
2024年3月12日
大 村 謙二郎
フィクションの小説も好きですが、事実に基づくノンフィクション作品も、こんな事実があるのだ、こんな人がいるのだと、世界の拡がりをあらためて認識させられ、比較的ノンフィクション作品を読む方です。最近は人物評伝などが好みです。
2011年12月に刊行された『駆け込み寺の玄さん』を加筆・修正・改題して、文庫化したのが本書です。
佐々さんのノンフィクション作品では、東日本震災で壊滅的打撃を受けた日本製紙石巻工場の再生を扱った『紙をつなげ! 彼らが紙の本を作っている 再生・日本製紙石巻工場』と『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』の2冊を大変面白く読んだ記憶があります。綿密な取材、人の感情、考え、感動を描く文章力に感心しました。この2冊も、おすすめの本です
本書は歌舞伎町で人助けの駆け込み寺を開設して、悩み事、苦しみを抱え、救済を求める人に年中無休、24時間で対応するNPO法人、救護センターを運営する玄秀盛の半生を辿りながら、駆け込み寺に駆け込んでくる人々の生態を赤裸々に叙述し、さらに玄の壮絶な人生を描いたノンフィクションです。
佐々自身が駆け出しのフリーライターで、このNPO法人のメルマガを書くアルバイトをすることをきっかけとして、玄にインタビューを行い、背景も含めて、息の長い取材を踏まえた形で出来たのがノンフィクションです。
玄の半生がどこまで本当かよくわからないが、済州島から密航してきた父、4人の母親との過酷な家庭環境の中で、生存競争を勝ち抜いてきて、悪行の限りを尽くした生命力の強い玄の半生が描かれています。どこまで、本当かよくわからないが、佐々のフィクションではなさそうですが、迫力のあるノンフィクションです。
いずれにせよ、玄という強烈な個性、アクの強い性格の男、露悪家といった多面的な顔を持った玄に肉薄した、なかなか、読みごたえのあるノンフィクション作品です。
佐々さんはその後も話題となる、ノンフィクションを次々と刊行されているようなので、機会があれば、読んでみようと思います。
日本のノンフィクションはマーケットとしては縮小傾向にあるようですが、時間をかけて、丹念に取材を重ねて、長大な読み応えのある作品を創るノンフィクション作家が活動できる場が持続できると良いと思います。