都市プランナーの雑読記 その63
NHKスペシャル取材班『日本海軍400時間の証言 軍令部・参謀たちが語った敗戦』新潮文庫、2014.08
2023年8月24日
大 村 謙 二 郎
今年は戦後、78年。第二次大戦の体験、記憶を持っている人はだんだん少なくなってきました。毎年、この時期になると、先の太平洋戦争、第二次大戦に関する書籍が刊行されます。メディアでも新たに発見された資料、あるいは新たな視点による先の第二次大戦、太平洋戦争についてのドキュメントが多く放送され、見応えのある映像資料があります。
ちょっと旧い本ですが、たいへん印象深く読んだ本です。
海軍反省会というものがあったそうです。1980年から1991年まで、130回以上にわたり、ほぼ毎月、海軍組織のOB組織「水交会」で行われていた非公開の研究会で、出席者の多くは当時の海軍軍令部や海軍省に所属していたかつての参謀をはじめとする高級軍人でした。その目的は海軍が関わった、第二次大戦について多面的に議論しようというもので、長い間、その議論の記録は封印、秘密にされていました。
NHK取材班が第二次大戦に関する勉強会を続ける中で、勉強会の指導役であった海軍の専門家である戸高一成氏から、海軍反省会のことを聞き、その会の秘密の録音記録があることを知ったことに始まります。
海軍反省会に参加、出席した人々の大半が鬼籍に入る頃(2003年)にこれを聞き出したNHK記者が、この反省会の膨大な記録テープの大半を入手し、さらには当時の会に配られた関連資料、議事記録なども関係者の伝手を辿って入手、また、生存者、遺族、関係者にインタビューを行う中で、ほぼ6年の調査、分析をかけて制作されたのが2009年8月に全3回で放映されたNHKスペシャル「日本海軍400時間の証言」です。残念なことに私はこの放送は見ていなかったのですが、当時反響を呼んだ番組だったようです。
この番組の取材、制作に関わった取材班6名が、番組制作の過程で知ったこと、あるいはそれに触発された現代に通底する組織の問題などについて記したノンフィクションです。
単行本としては2011年7月に刊行され、文庫化にあたり改訂がなされたものです。
対米開戦にどう海軍は関わったのか、海軍の責任はという問いに対して、関係資料の徹底的な読み込み、分析、関係者へのヒヤリングを通じて謎に迫る記述は迫力があります。
海軍の組織の論理が優先され、合理的に考えれば対米戦争が無謀で、国家にとって益しないと思いつつも、海軍あって国家なしの状況は現在のいろいろな社会に通じる話と思いました。内心はおかしいと思っていても表だって発言できない、発言しないという空気が当時も支配的だったし、臆病者の海軍といわれたくないといった気分もあったようです。
あまり戦記物も読まないし、海軍の組織構造もよく知らなかったのですが、この本でいろいろなことを知りました。当時の高級軍人といわれる人が家庭的で高潔な人格者であった人が多かったようですが、それが、現場の戦場での残虐行為を知りつつ、やましき沈黙に陥った機制は今でもかわっていないかなと思います。
戦犯裁判において、解体された海軍省を引き継いだ第二復員省が組織的に立ち回り、天皇及び海軍幹部がA級戦犯に問われないように工作を行い、彼らの責任をうやむやにした一方で、現地での戦争犯罪に関わったということでB級、C級戦犯が処刑、処罰されたことは、やはり不合理、矛盾を感じました。
反省会に出席した人の発言「陸軍は暴力犯。海軍は知能犯。いずれも陸海軍あるを知って、国あるを忘れていた。」は至言だと思います。
これは福島原発の大事故、人災を引き起こしたと思われる東電や政府関係者が責任を問われない構造と同型だなと思いました。
読後感がすっきり、ということではありませんが、重い課題が与えられたと思うし、歴史を軽視してはいけないとあらためて思いました。