都市プランナーの雑読記その60
宇沢弘文『人間の経済』新潮新書、2017.04
2023年6月5日
大 村 謙二郎
宇沢弘文先生は経済学の大家で、国際的な賞も数多く受賞されている世界的な学者です。宇沢先生の経済学の専門的な論文、著書は読んだことはありませんが、「自動車の社会的費用」や「社会共通資本」など、都市に関わる著作を数多く著されており、私もこれらの都市や社会資本に関する書籍を読んで示唆を受けてきました。
この書は、晩年の宇沢先生が、自分の考えを率直、簡明に述べた講演、インタビューを基に一書をまとめようと、新潮社編集部と相談されていたところ、病に倒れ、生前刊行にいたらなかったものを、跡を継いだ遺族が編集の方々と一緒にとりまとめたものです。
宇沢先生は、一高時代は医者になろうと考えていたのですが、その後、数学を専攻し、さらに経済学に転じて世界的な学者になられたのですが、それでもいつも自分のやることが社会、世の中にどのような意味を持ち、貢献ができるかをつねに考えておられたようです。
経済学を狭く捉えるのでなく、金儲けの手段と堕することに対して激しく批判され、人間あっての経済であることを常に心がけおられたようです。
本書は講演、インタビューを基にまとめられているので、一般に理解しやすい表現、さっと読めるような気がしますが、その中味は充実しており、多くのことを考えさせてくれます。青臭いような議論だとシニカルに構える人に反省を迫る本だと思います。
医学、教育、農業、自然環境等、社会共通資本に属するものを軽々に市場経済に委ねることの危険性を何度も強調されており、共感できます。