顧問大村謙二郎「都市プランナーの雑読記-その54/近藤正一他『RIAが建築で街をつくりはじめて』」

都市プランナーの雑読記その54

近藤正一他『RIAが建築で街をつくりはじめて』建築メディア研究所発行、建築技術発売、2022.04

2022年12月6日
大 村 謙 二 郎

 日本の再開発をその初期の時代から領導してきた再開発コンサルタント組織でもあるRIAのおよそ70年近くの街づくり活動の歴史、再開発にどう関わってきたかを取りまとめたのが本書です。
 本書はこの書に先駆けて刊行された、RIAがいかに住宅設計に関わってきたかを記録した『疾風のごとく駆け抜けたRIAの住宅づくり[1953-69]』(彰国社、2013.9)(未読)の続編という趣旨もあるようです。
 RIAはグロピウスの下で建築を学び、バウハウスに大きな影響を受けた山口文象が創設した事務所で、山口文象、三輪正弘、植田一豊が創設時のメンバーです。本書の主題である再開発、街づくり部門のトップとしてRIAを牽引した近藤正一は1954年に加わっています。
 本書はRIA創設当時の事情を知る人に対するインタビューや、再開発制度設立当時の記録、当時のRIAの所員の回顧録なども交え、再開発組織、街づくり組織としてのRIAを多面的に描き出しており、私が知らない事情、エピソードも満載で大変興味深く読めました。 特に、この書の刊行に意欲を示し、RIAを再開発のRIAとして育て上げた近藤正一はこの書の刊行を待たずに鬼籍に入ることになったが、本書は近藤正一の初期の文章や、RIAと再開発についての対談記録が多数収録されており、近藤正一に対するオマージュの書の感もある。私は晩年の近藤さんとは何度か、パーティ、研究会で同席することがあり、それなりに話を交わしたこともあるが、近藤さんの再開発の経験、知見について、ちゃんと伺うことがなかったのが悔やまれます。
 本書は4章構成です。
 第1章では都市計画史研究の若手というか中堅の研究者である初田香成が「日本の都市再開発とRIA」と題し、中島直人が「再開発事業の時間軸とRIAの仕事」と題して、再開発に初期の時代から活動を展開してきたRIAについて都市計画史的な位置づけの力作論考を展開しています。実際にはこの二人は再開発の実務に関わっていないと思われるし、やや、観念的な整理もあるが、若い世代がこういった形で日本の再開発を読み解いているのは興味深いです。
 第2章は創設期のRIAの再開発を回顧する意味もあって、「大阪から始まったRIAの街づくり」と題し、この時期の大阪でのRIAの街づくりに関わった、植田一豊、藤田邦明について、また、いくつかの再開発法以前のプロジェクトについて論じています。理論派と目された植田一豊の論説が採録され、参考になります。また、大阪府で再開発に長年関わった、椚座正信に対する初田・中島のインタビュー記録も貴重な証言です。大阪のことは私も知らないことが多く、興味深かったです。
 この章では立売堀高度利用計画、立売堀防火建築帯、小阪駅前防災建築街区、和泉府中駅前の防災建築街区、服部駅東第二地区防災建築街区、新大阪センイシティ(防災建築街区造成事業)の6プロジェクトが紹介されています。
 第3章は「街づくりのひろがり」と題して、RIAが大阪から、全国に再開発プロジェクトを展開する軌跡について論じています。取り上げているプロジェクトは、太田南一番街(太田駅南口防災建築街区1964-1970)、吉祥寺駅北口(防災建築街区1966ー1972)、桑名駅前(駅前地区再開発1967-1972)の3プロジェクトです。
 大田南一番街共同建築の誕生と変貌については、当時、このプロジェクトに携わった伊達美徳が、吉祥寺計画と時代背景については近藤正一と伊藤滋が対談を、都市再開発と再開発コーディネーターの誕生については、当時これに携わった對島英輔・伊丹勝・近藤正一の3人が鼎談しています。また、この時期の再開発の誕生について、近藤正一の論説「アーバン・リ・ディベロップメント・イン・ジャパン」、コーディネーターについての近藤正一の「コーディネーターの10箇条」が再録され、紹介されています。近藤正一の軽妙洒脱な文章が面白いですし近藤の再開発プランナーという職能についての考え方は現在においても大変示唆的です。
 第4章は「連鎖する街づくり」と題して、長年にわたって、都市再開発を連鎖的に展開した事例を中心に現在のRIAの活動につながる道筋が論じられています。
 紹介されているプロジェクトは、金沢(1969-2021)、町田(1969―2002)、天王洲アイル(1986-96)の3つのプロジェクトです。
 金沢の街づくりの50年について、長年、市長として金沢の街づくりに携わった山出保とRIAで関わった近藤正一・有賀正晃が語り、さらに金沢の再開発、街づくりにライフワークとして取り組んで来たRIA出身の村田秀彦が論説を寄稿しています。町田の顔づくりについてはやはり、行政で長年携わった牧田英也とRIAの近藤正一・宮原義明の3人が語り合っています。
 天王洲アイルとこの時期のRIAの都市デザイン戦略、都市再開発に関わる姿勢について、近藤正一の3本の論説「天王洲アイルにおける計画の実際」「都市デザインの手法-RIAが求める都市空間」「平らな目線で」が再録されています。
 また、この50年以上に及ぶ、日本の都市再開発を長期的な視点で位置づけるべく、「日本におけると再開発とは何か」と題して、蓑原敬・近藤正一が縦横に語っています(聞き手は中島直人)。最期に本書全体の締めくくりとして、近藤正一を引き継いでRIAの再開発を領導している宮原義昭が「再開発と街づくり」について総括的に論じています。
 以上、本書は日本の再開発を、その最前に立って、リードしてきた組織RIAとそれを造りあげてきた個性ある人びとの群像とプロジェクトの内容が具体的に論じられており再開発に関心がある人にとって、示唆に富む本です。個人的にはRIAの方々といろんな機会でおつきあいすることが多く、RIAの再開発活動を身近に感じられて、興味深く、いろんな人の顔を思い浮かべながら楽しく読めました。