都市プランナーの雑読記その49
若林幹夫編著『モール化する都市と社会 巨大商業施設論』NTT出版、2013.10
2022年8月26日
大 村 謙 二 郎
全国各地に展開するSC(ショッピングセンター)、SM(ショッピングモール)は都市や地域の空間構造を大きく変えてきているし、また、私たちの消費生活、ライフスタイルも大きく変えてきています。地方都市を中心とする中心市街地衰退問題とも大きな関わりを持っています。
若林さんは1962年生まれの社会学者で、郊外論、都市論について多くの著作を刊行されています。その若林さんが、彼よりも15歳から20歳近く若い研究者と一緒に研究会を組織してSC、SMを多面的に分析、論じたのが本書です。いまから、10年近く前の刊行の本なので、現実とマッチしないかと思われるかも知れませんが、いまでも有効な視点が盛り込まれています。
また、社会学系統の方々の論考なので、都市計画的に見て、もっとこういった分析もあるかなという点もありますし、経済的な面での分析も不足かなと思いますが、それは無い物ねだりというもので、大変興味深い論考が多く参考になりました。
若林さんの全体を俯瞰する論は現代の日本社会の重要な風景要素となっているSC、SMの持つ意味を明解に分析、整理しており蒙を啓かれると同時に、単純にSC、SMを批判できない論点がよくわかります。また私にとって特に面白かったのは南後由和さんの「建築空間/情報空間としてのショッピングモール」の論説でした。彼は現代のショッピングモールの原型が1970年の大阪万博の会場デザインや群衆管理にあることを示しつつ、現代のSMがきわめて工学主義的空間として訪問者、顧客をコントロールしつつ、安全、安心の空間を生み出していることを示しており、説得力があります。
私自身は若林さんよりもさらに15歳年上であり、SCに親密感を感じないし、日常的にも利用できないので、何となくステレオタイプ的にショッピングモールのフェイク感とか薄っぺらさなどを感じるのですが、若林さんや、さらにそれより一回り若い世代に取っては当たり前にある空間、風景としてSC、SMが感じられる世代であり、研究者という立場であってもSC、SMに対するまなざしが違うのかなと感じました。
郊外に出現した、ある意味で、高度に人工的な巨大な都市空間としてのショッピングモールはそこを訪れた人々にとって、懐かしい風景、体験として記憶に残る空間として持続可能なのか大いに疑問です。人口・世帯が減少し、商業環境が激変し、ネットショッピングがさらに進化した時代に、車でわざわざ足を運ぶ、レジャーランドとしてのショッピングセンターが生き残れるのか。アメリカではすでに、ショッピングモール廃墟問題が各地で起こり、60年代、70年代の初期の比較的規模の小さなショッピングモールを再整備、再開発して市街地に統合する動きがあるようです。日本の近未来も各地でつくられたショッピングモールの廃墟化問題が現実化するのではないでしょうか。SF的な世界であればよいのですが。