大村謙二郎「都市プランナーの雑読記-その48/平田オリザ『下り坂をそろそろと下る あたらしい「この国のかたち」』」

都市プランナーの雑読記-その48

平田オリザ『下り坂をそろそろと下る あたらしい「この国のかたち」』講談社現代新書、2016.05

2022年7月26日
大 村 謙 二 郎

 電子版で読みました。電子版だと線を引いたり、徴を付けたりする代替する機能があるのですが、なんだか読みにくいです。でも、旅行先でちょっと気になってすぐに読みたいなと思うときに、瞬時に対応出来ること、かさばらないことなどという点では便利です。
 平田さんは著名な劇作家、演出家だそうでいろいろな大学の特任教授や各地でのワークショップを展開している方だそうです。
 さて、この書は彼が敬愛する司馬遼太郎の「坂の上の雲」や「この国のかたち」などを引用、参照しながら、日本がこれから下り坂になり、かつての成長時代とは異なる、寂しさを抱えた社会としてなんとか、ゆるやかに低成長、衰退社会にアジャストする国として、どうあるのがよいのかを論じています。彼が各地で関わってきた文化、演劇によるまちおこし、まちづくり事例を説明しながら、将来の日本社会像を示そうというものです。
 瀬戸内小豆島、但馬豊岡、讃岐善通寺、東北・女川、双葉の事例を取り上げながら、自分の地域の個性を活かし、特性を活かした地域興しの可能性、課題を具体的に示しており、なかなか説得力があります。
 平田さん曰く、地方創成の議論が経済的な側面に偏り、文化による地域興しが軽視されていたが、失業している人も演劇、音楽会を気兼ねなく楽しめる、子育てのお母さんがいろいろな文化活動に参加したり、楽しめたりする、そういったゆとりを持てる社会を目指すべきといっています。
 善通寺の大学での入学試験のあり方について、ちょっとどうか、と思うし、また、これからの社会で知識を持つ必要性は低下し、コミュニケーション力、共感力が大切という観点から文部科学省が進めようとしている大学入試改革に旗を振っています。しかし果たして、基礎的な語彙力、基礎的な計算力、なにを調べるかについての基本的な考え方の養い方、ある種の勤勉さはやはり必要ではないかと、この点はいささか違和感を覚えます。知識を全て外部化することの是非は慎重に吟味すべきだと思います。
 でも、全体を通じて、いろいろ啓発される点が多い本でした。