都市プランナーの雑読記-その42
斎藤美奈子『文庫解説ワンダーランド』岩波新書、2017.01
2022年3月14日
大 村 謙 二 郎
斎藤さんは毎週一回、東京新聞で世の中の動きを鋭く、ユーモアを持った批評コラムを連載していて、愛読しています。
文庫本を買ったら、全部読む前に先に解説を読んだりして、結構解説が気になる方です。時には、文庫の解説を読んで、本体を買ってしまうことも、ままあります。
確かめたわけではないです、この文庫本、解説というのは日本独自のものかも知れないかもしれません。書評というジャンルが海外では成立し、週末の新聞の書評欄は長文の書評が沢山掲載されていることが多いようです。解説者と作者との関係を考えると、多くはよいしょ、追従であったり、あるいは作品と関係なく、自分の批評世界を繰り広げたりするといった解説があるようです。
誰もが結構読んでいる解説を遡上にあげて、なかなか辛辣、あるいは抱腹絶倒の批評を展開しています。でも、流石、斎藤さんで、自分もいくつかの文庫本の解説していることを自覚しており、この批評は自分にブーメランのように帰ってくることを自覚しており、それが、また笑いを誘います。
序の部分で、岩井克人「ヴェニスの商人の資本論」の文庫版あとがきをひいて、なぜ、岩井が、他人の解説を断り、自分で解説を書こうとして挫折して、その開き直りとも言うべき、あとがきを書いた所以を記して、「ヴェニスの商人の資本論」の中味はさっぱり覚えていないが、このあとがきだけは記憶に残っているとして、なかなか辛らつな批評をしています。因みに、私もこの岩井の文庫を読んで、あとがきも読んでいるのですが、両方ともすっかり忘れていました。
本文は4章構成です。「Ⅰ.あの名作に、この解説」では、夏目漱石「坊っちゃん」、川端康成「伊豆の踊子」「雪国」、太宰治「走れ メロス」他、、「Ⅱ 異文化よ、こんにちは」では、カーポティ「ティファニーで朝食を、バーネット「小公女」、新渡戸稲造「武士道」他、「Ⅲ なんとなく、知識人」では、田中康夫「なんとなくクリスタル」、マルクス「資本論」、小林秀雄「モーツアルト・無常という事」他、「Ⅳ 教えて、現代文学」では、村上龍「限りなく透明に近いブルー」、松本清張「点と線」、渡辺淳一「ひとひらの雪」、百田尚樹「永遠の0」他、の解説が取り上げられ、作品そのものでなく、解説の文体、内容などについて、面白く、批判精神旺盛に読み解いています。
解説について、こんな読み方、批評の仕方があったのだと感心しました。着眼点の鋭い、楽しい、エンタテイメント本でした。