都市プランナーの雑読記-その37
東山彰良『流(りゅう)』講談社文庫、2017.07
2021年11月19日
大 村 謙 二 郎
最近、台湾についての国際的な関心がいろいろな面で高まっています。コロナパンデミックに対して、いち早くデジタル対応を行い、感染の拡大、抑制で大きな成果を収めたこと。また、台湾海峡をめぐる緊迫した情勢の中で台湾の行く末に対するいろいろな不安が議論されていること。さらには世界の半導体製造の拠点であり、その動向により、世界の経済が大きな影響を受けていること等々。総じていえば、台湾には親日的な人が多く、台湾を訪問したことがある人は良い印象を持った人が多いのではと思いますし、日本でも台湾に対する親しみを持つ人が多いのではと思います。
東山さんは1968年の台湾生まれで、5歳まで台北で過ごし、9歳で福岡にやってきたという経歴の人です。ご両親も中国台湾の方で、祖父は中国山東省出身の抗日戦士だったとか。現在も中華民国台湾の国籍を持っている方のようです。
本書は2015年の直木賞受賞作で、単行本の文庫版です。
文庫の腰帯に20年に一度の傑作とか、選考委員の賛辞が掲載されています。まあ、それほどの傑作かどうかは別にして、面白く、わくわくして読めました。
舞台は1975年の台北で無軌道に暮らす17歳の葉秋生(イエチョウシェン)を取り巻く世界を、親戚一族、友人、恋人、まわりの大人たち、敵対する若者たちとの交流、軋轢、闘争等を絡ませてダイナミックに描かれています。
中でも本書の主題は、彼が慕っていた不死身の抗日戦士の祖父が殺され、それに衝撃を受けた葉秋生が祖父の死の謎を探るために、一族のルーツ、自分のルーツを探る旅に出かけるという、青春小説、ビルドゥングスロマンのおもむきのある小説です。
70年代、80年代初頭の台湾ではまだ、戦後大陸からやってきた国民党派の中国人が政治的に支配的地位を占め、長くから台湾に住む人々との間の軋轢、差別が根強く、いろいろな事件が起きていたことは初めて知りました。長い間、台湾は戒厳令下にあり、様々な自由が制限されていた歴史があったのです。
また、親の権威が絶大であり、男女関係についてもモラルが結構しっかりしていたのだというのも意外な台湾の発見で、日本の70年代や、バブル時代の日本とはまだまだ違う国だったのを知り、その点でも新鮮な小説でした。
最初は登場人物の名前が中国読みで名前と人物を確かめるために何度も登場人物一覧を見ていたのですが途中から、スイスイ読めるようになりました。
私は2000年代にはいってから何度も台湾を訪れたことがあり、日本とほぼ変わらない現代的雰囲気、人々の行動などを見て、文化の違いはあるけれど、同じ民主国家だと思っていたのですが。あらためて、現代台湾の複雑な事情、人々の意識などを知ることができたような気がしました。
そういう意味でも単なるエンターテイメント小説を超えた面白い小説でした。