大村謙二郎「都市プランナーの雑読記-その35/松村秀一『建築-新しい仕事のかたち 箱の産業から場の産業へ』」

都市プランナーの雑読記-その35

松村秀一『建築-新しい仕事のかたち 箱の産業から場の産業へ』彰国社、2013.12

2021年9月21日
大 村 謙 二 郎

 時代の潮流を読み解き、活発に活動を続け、建築の在り方に積極的に発言している松村さんの著書です。
 新規の箱物としての建築物を作るという意味での建築家の仕事は減り、建設産業の先行きは厳しいようですし、建設産業に新たな魅力を感じて飛び込もうという若者は増えるかといえばなかなか厳しいと思います。
 都市計画、都市開発に関わる分野も同じかも知れません。都市計画、とりわけコンサルタント業界、現地と密着する職種では、時間に関係ない業務、日曜、祭日を返上しての業務などが発生して、3K職場と言われていたのですが、それはどの程度改善されているのでしょうか。一方で、まちづくりに創造の喜び、協働のよろこびを感じて、このフィールドに入ってくる若者、女性の活躍が目立つようになってきているのはよろこばしい兆候といえそうですが。
 松村さんのこの著は建築の仕事を脱構築して、広げていく可能性、ハードルについて、具体的に説得力を持って展開されています。小著ですが中味は含蓄があり、いろいろ刺激的で、私はついつい、都市計画の仕事の未来に引き寄せる形で読みました。
 今後の建築の仕事として、次の7つのポイントを挙げており、そのポイントに従って各章を展開しています。

①  生活する場から発想する-利用の構想力の導入-
②  空間資源を発見する
③  空間資源の短所を補い長所を伸ばす
④  空間資源を「場」化する
⑤  人と場を出会わせる
⑥  経済活動の中に埋め込む
⑦  生活の場として評価する

 いろいろ示唆深い考えがありましたが、私にとって、特に印象深かったのが「これからの建築家(それは都市計画家にもつうじることですが)はいろいろな分野、業界の言葉を理解でき、コミュニケートできるマルチリンガル多言語の能力を持つ必要性がある」との指摘です。また、「個別の建物のプロパティ・マネジメントとまち(地区)のエリア・マネジメント連携、相乗効果の発揮を図ることの重要性の指摘」です。
 都市計画(その中味と拡がりが問われますが)、若い世代の人達にとって、どのような魅力を持つものか、面白く感じられるものになるのかを伝えることができるかが問われているなと思いました。