「全国地方税務協議会」顧問鷺坂長美

全国地方税務協議会

2021年5月6日
鷺 坂 長 美

 旧自治省の税務局で仕事をしていた頃のお話しです。
 地方税は地方税法により課税されますが、課税主体はあくまで自治体ですので、課税に不服があった場合の不服申し立て先は当該自治体の首長です。したがって不服申し立ての裁決もそれぞれの自治体で行われます。一方、国税には国税不服審判所という専門の組織があり、そこで一元的に裁決されます。法律により課税される税金について、地方税といえども不服に対応する組織が全国ばらばらでいいのか、という思いがありました。もちろん地方分権という点からすれば当然で、最終的には裁判所への訴えの道も残されているので、問題はありませんが。
 1990年ごろ、バブルのころですが、全国各地で土地の不動産売買が急に増加したときです。地方の税務課長さんから、見ず知らずの都会の人が不動産を購入して不動産取得税を滞納しても、情報も少なくなかなか滞納処分が出来ない、という苦労話を聞いたことがありました。地方税の課税当局同士がもっと連絡しあってお互いの情報を交換し、住民からの不服申し立てや税の徴収等に役立てる組織があればいいのに、思ったりしていました。
 当時の自治省の各局では課長補佐クラスが集まって議論し、「補佐提言」として幹部に提言するということが行われていました。そこで、地方税の課税当局が連携し、情報交換する場を設けたら、ということを議題にして議論しました。全国の地方税務当局で構成する協議会を設け、そこで徴税に係る情報交換をしたらどうか。折角なら事務局が必要だよね。事務局をつくるならアドホックな課題解決だけでなく日ごろから計画的に行う事業が必要だよね。税務研修等どうだろうか。などなどみんなで知恵を出し合って、「補佐提言」という形でまとめ、提出しました。当時の幹部からは「よしやろう」ということになったのですが、自治体の協議会ですので、自治体側からの盛り上がりも不可欠です。幸い地域ごとに積極的な税務課長さんがいてブロック会議等で提案していただきました。事務局を設置するとなると財源が必要です。一定の負担金をお願いすることにしましたが、いざ、予算が必要となるとなかなか意見が集約しません。しかたがないので、こちらからも手分けして各地の税務課長さんに働きかけをしました。全国の地方税務当局の協議会ということから「全国地方税務協議会」という名称にしましたが、「全国」と「地方」が並ぶのは矛盾ではないか、などという意見もありました。
 協議会の設立は1993年1月です。最初の構想が1990年ごろでしたので、3年がかりです。既にバブルは崩壊していましたので不動産取得税関係の仕事はあまりありませんでしたが、不正軽油に対する課税では大きな役割を果たしました。トラック等のディーゼルエンジンに用いられる軽油には軽油引取税が課税されます。不正軽油とは税金のかからない重油や灯油を混ぜて自動車燃料として使用するもので軽油引取税の脱税行為ということになります。脱税行為を根本から取り締まるにはその製造元で摘発しなければなりませんが、走行中のトラックで違法行為を見つけても都道府県単位では製造元まで追跡することはなかなか困難でした。全国地方税務協議会が立ち上がると早速不正軽油撲滅へということで各地の税務当局が連携し、摘発に効果を発揮しました。協議会の設立が思わぬところで役立ったと思ったものです。
 この全国地方税務協議会は、その後、地方税の電子申告等の事務も手掛け、2018年度税制改正の中では、法律に位置付けられた地方共同法人である地方税共同機構に発展的に解消しています。