都市プランナーの雑読記-その22
内田洋子『ジーノの家 イタリア10景』2013.03
2021年3月30日
大 村 謙 二 郎
どういう理由でこの本に行き着いたのか不明ですが、掘り出し物の面白いエッセイでした。
イタリアものといえば、須賀敦子さんが有名ですが。須賀さんのエッセイはシリアス、真面目、文学的香りの高いエッセイが多いのに対して、内田さんのこのエッセイはイタリア人の陽気さ、いい加減さ、情熱ぶりなどがユーモアたっぷりに描かれていて、イタリア好きの私のテイストにぴったりでした。
解説の松田哲夫さんによれば、イタリア在住30有余年のジャーナリストが書いたエッセイ集で、2011年に日本エッセイスト・クラブ賞と講談社エッセイ賞をダブル受賞した初めての作品だそうです。
イタリア10景と題していますが、内田さんが住むミラノを中心に北部イタリアの話が多いです。ただし、ミラノが典型ですが、北部イタリアには、仕事がなく貧しい南部イタリアから来た人が多く、エッセイの中でその人達が繰り広げるいろいろな表情、行動が取り上げられて、描写されています。
松田さんも解説で力説されていますが、内田さんの人物描写、観察ぶりは詳細、具体性に富み、服装、食べ物の描き方は秀逸です。無名の市井の人々が取り上げられているのですが、それぞれの話がドラマの一つになるような話で、本当にこんな事があるのかとおどろきの連続です。
ただし、笑いだけでなく、ペーソスを伴うようなエンディングの話もあり、イタリアは都市国家であったこと、知らなかった小さな町、村でも魅力一杯の場所があることがよくわかります。ドイツはドイツで魅力もあるし、行ってみたい国なのですが、食べ物、都市、文化、歴史の魅力でいえば、イタリアはそれ以上かなとおもいます。
イタリア語は皆目わかりませんが、イタリア映画見るイタリアの俳優の話す言葉、表情に惹きつけられます。