春のおとずれ -練馬にて- (2021年3月)
2021年3月1日
小 澤 英 明
コロナ禍の中でも春はいつものように訪れてくる。わが家で春を最初に感じるのは、黄色のクロッカスの花である(写真参照、一緒に写っているのはガーデンシクラメンとパンジー)。今年の開花は2月19日で、写真は翌々日のものである。クロッカスは、その後、青紫の花、白い花と続く。庭の日本水仙も2月いっぱい美しく咲く。12月から咲き始めるので、春の使者とは呼びにくいが、好きな花である。先日、イギリスでは春のおとずれを何で感じるのだろうと、パラパラと手元の本をめくってみたら、3月の水仙のようで、日本との差を感じた気になった。しかし、調べると、イギリスの水仙は、ラッパ水仙(daffodil)であって、黄水仙であり、日本水仙とは種類が違う。開花時期に差があっても不思議ではない。
今年は2月中旬を過ぎると暖かい日が続いたので、1月はじめに植えていたパンジーやラナンキュラスも勢いよく咲き始めた。もともと、花付きの苗をガーデンセンターから購入して植え付けているので、育てるのに何の苦労もないが、我が家のある練馬は、名にし負う寒暖の激しい土地である。テレビの天気予報の最高気温、最低気温だって、東京都心と区別して表示されるくらいである。ところで、我が家は旗竿地であり、東の公道に通じる竿の部分を通路とし、その両脇を花壇にしている。通路北側は日当たりがよいが、南側は隣家のかげで日当たりが悪い。そのため、1月の植え付け時、通路南側の花壇は、地中が凍っていて移植ゴテでは歯が立たず、北側の花壇にしか植えられなかった。2月下旬、公道から見ると、右側の花壇だけが勢いよく花を咲かせ、何とも不格好なことになった。「この家、面白い植え方しているわね。」と子供に話しながら通り過ぎたおかあさんもいたかもしれない。「実は、左側の花壇は土の中が凍っていて、移植ゴテでは太刀打ちできなかったんですよ!」
多くの椿は、2月から少しずつ開花し、3月が最盛期となる。ただ、北陸地方のユキツバキ系は、冬に湿気が必要なためか、わが庭では生育が悪い。「津川絞」という、写真で一目ぼれした椿は、苗を買って庭のいいところに植えたのだが、大きくならない。また、冬咲きの椿もいくつか植えたが、練馬の冬は寒く、冬の間はつぼみが開いても、十分咲き切らない。「秋の山」という椿は、咲き切ると白い花弁に赤い絞りが入るものもあり、魅力があるが、我が家では大きなつぼみも冬は寒さにかじかんでしまう。標準的な3月咲きの椿が我が家には合っているようだ。
イギリスでは、早くリタイアして、郊外の庭の広い家で園芸を楽しむことを夢見ている人が多いらしい。その気持ちはよくわかる。私もガーデニングが好きだし、本を読んだり音楽を聴いたりするのも好きだから、そのような生活は一つの理想のようにも思える。しかし、仕事をしながら、時おり庭を楽しむのもよさそうだと最近は思うようになった。西村あさひ法律事務所で忙しかった頃、早く田舎に引っ越して悠々自適に過ごしたいと思い、田舎暮らしの本を読みながら、物件探しをしていたことがある。おかげで、古民家物件が多かった房総半島の地理には詳しくなったが、車の運転でつきあってくれた妻は、当時から、知らない町を訪ねる楽しいドライブくらいにしか思っていなかったような気がする。