都市プランナーの雑読記-その15
岡本隆司『中国の論理 歴史から解き明かす』中公新書、2016.08
2020年12月8日
大 村 謙二郎
このところ、この人の著作にはまって、いろいろ雑読しています。といっても、本格的な専門書ではなく、文庫や新書の手軽に読める本が中心ですが。
なぜ最近、中国関係の本に触手を伸ばすようになったのか。やはり、この30年近くの間の中国の経済的発展とそれと軌を一にした政治的影響力の増大、近隣国日本への様々な影響が飛躍的に増大してきて、中国の存在を強く意識することになった面があると思います。
中国武漢で発生した新型コロナウイルスがあっという間に世界中に拡がりパンデミック化したのには中国がグローバル化の主導的役割を果たし、膨大な数の人の流動を高めたことが大きな要因の事は確かです。また、どちらかというと最近報道される中国の尊大な態度や強権的姿勢また、新疆ウイグル地区での弾圧、香港での民主勢力への強圧的対応等も相まって、中国に対する嫌悪の感情が高まっていることも中国への関心を高めます。
中国史・中国研究が専門の岡本さんでですら、本書のあとがきで中国・中国人が好きか、嫌いかと問われたら、嫌いとこたえると述懐しています。だが、嫌いだが、中国研究は断然面白いし、いろいろ知的好奇心をそそられる対象とこれも素直に述べています。
たぶん、私も嫌いだけど、これほど、世界、日本に大きな存在感、影響力を持った国をちゃんと理解、知ることに私も素人なりに興味を覚えるからこそ、中国関連書を読むつもりです。たぶん、市場にあまねく流通している嫌中本、中国衰亡論のようないい加減なヘイト本でなく、ちゃんと不思議の国、中国を理解したいという心境です。
この書は副題に「歴史から解き明かす」とつけられているように、中国・中国人にいまも残る、独自の論理、価値観がどういう歴史的経緯で生まれ、形成され、変容してきたかを明らかにしようとしています。
ただ単に歴史をたどるのではなく、次の5つのテーマに沿って、各論的に展開し、いまも残る、中華思想の時間的、空間的特質、エリートと庶民の分断構造が解き明かされています。
第Ⅰのテーマは「史学」で、ここでは今なお、中国人の価値観に根付いており、近隣の韓国、日本にも大きな影響を与えている儒教の成立、普及過程を解説し、さらに中国独自の史学、史書が持つ長い歴史を説明しています。
第Ⅱのテーマは「社会と政治」で、中国でエリートがどのような枠組みで生まれてきたのか、貴族制を打破し科挙体制ができあがることにより、士大夫と庶民の分断、隔絶構造が生まれる機構を説明しています。
第Ⅲのテーマは「世界観と秩序」で、中国がもつ「天下」という世界観、華夷秩序が東アジアの世界観を形成していることを説明しています。
第Ⅳのテーは「近代の到来」で、長年にわたって、中華世界で自尊的に存在していた中国が西欧の衝撃をどう受け止めたのか、それに対する反応を康有為、梁啓超などの近代化主義者の苦闘を通じて解説しています。いち早く開国し、近代化に「成功」していると目された、近代日本の歩みは、近代化を希求した中国の若い近代主義者にとって大きな影響を与えたことが示されています。
第Ⅴのテーマは20世紀以降の「革命」の世紀を扱い、現代中国に至る過程で、中国の論理が変容したのか、それとも依然として、牢固として中国を世界の中心におく、中華思想が健在なのかを論じています。
結びに以上の歴史的考察を踏まえて、現代の日中関係への示唆を論じている。この点もいろいろ考えさせられる論点が提示されています。
本書の元は学生向けの東洋史概論であったとの事ですが、何度も編集者とやりとりしながら、中国史に詳しくない人にも中国の論理、中国人の考え方のバックボーンとなるものを理解できる手がかりを与えようという形で、本書がなったようです。一読氷解と行かないまでも、複雑で、長大な中国の歴史を少しは理解できたような気がします。