都市プランナーの雑読記-その5
キャサリン・サンンソム著(大久保美春訳)『東京に暮らす1928-1936』岩波文庫、1994
2020年7月21日
大 村 謙 二 郎
あるエッセイでこの書が紹介されていて、面白そうだと思い購入した古本です。
作者のキャサリン・サムソンはヨークシャーで紡績工場を共同経営していた父、名家出身の母の長女として生まれた人です。イギリスで教育を受けたあと、2年間ドイツで音楽を勉強したとか。最初の結婚のあと、外交官だったジョージ・サムソンと再婚し、夫の赴任地、日本に1928年にやってきて、戦時色が強まってきた1939年5月まで東京に滞在したという経歴の人です。
「東京での生活はどのようなものか」という友人や親戚の問に答えるために書かれたものだと、著者が述べていますが、昭和初期の東京の生活ぶり、人々の様子を細やかな観察で叙述したもので、1937年にイギリスで刊行された本です。
当時東京に滞在した、外国人、特に欧米人の数は限られていたと思うし、外交官の夫婦が東京に暮らすのだから、一般庶民の生活とはかけ離れているように思いますが、キャサリン・サムソンは日本人の暮らしぶり、町の様子、旅先での人々の対応を、鋭い観察眼で描いています。
昭和初期で、庶民の生活は苦しい部分があったり、あるいは戦時色が徐々に強まってきたりするのかも知れませんが、そういった点はほとんど触れられておらず、日本人の明るさ、礼儀正しさ、優しさ等の美点をすくい取り、それを描いています。
昭和初期の東京には、簡素であるが、ゆったりした時間が流れていたこと、好奇心を持った日本人が沢山いたこと、子供を大切にする文化が日本に根付いていたことを細やかに描いています。
中島京子の「小さいおうち」で描かれていた世界に通底するものがあります。