「受け継いだ庭」弁護士小澤英明

受け継いだ庭(2020年7月)

2020年7月1日
小 澤 英 明

 練馬の家は7年前に購入した。もとの持ち主のYさんは英語の参考書の出版社を創業されて活躍された方で、この家を建てられて数年もたたないうちに亡くなられた。以後、ご遺族が十年ほどお住まいになっていたが、手放され、私が取得したという経緯である。当時、私は、両親と同居できて、日のよく当たる広い庭を楽しめる家をさがしていた。
 引っ越したのは5月だった。思えば、この庭の一番美しい季節であって、別世界に来たような印象を受けた。赤いシャクナゲ(石楠花)が美しかった。私は、長崎県出身なので、ツツジは小さいころから見飽きるほど見ているが、シャクナゲ(これもツツジ科である)を意識して見た記憶がなくて、この花は一体何の花だろうと思って見とれた。新緑でおおわれた庭の中央付近で、大きな赤いシャクナゲが高い位置でぽっ、ぽっと咲いていた印象は今も忘れられない。ただ、その後赤いシャクナゲは花付きが悪い。今年もよくなかった(写真の奥に見える赤い花がそのシャクナゲである)。庭にはもうひとつ、うす紫の(中心部だけが濃い紫の)シャクナゲがある。これは花付きがよく、一斉に咲くと圧巻である。
 受け継いだ庭はできるだけもとの植栽を残している。シャクナゲのほかにアヤメも4月の下旬から咲く。冬の間は地表部分をすっかり枯らしているが、4月になると茎が勢いよくまっすぐに伸びてきてその先端が青みを帯びだしたかと思うと次々に花を咲かせる。また、同じころ、赤い大きなボタン(牡丹)の花が咲く。特段の世話もしていないが、毎年美しく咲く。ブルーデージーやコデマリも4月下旬から咲き(写真に写っている白く見える花がコデマリ)、私のお気に入りである。ブルーデージーにはアオスジアゲハが訪れる。また、その頃からギボウシ(ホスタ)もどんどん地表に顔を出す。ギボウシは、その葉の色をめでる植物であり、日陰でも美しく人気があり、様々な種類がある。この庭にも何種類か植えてあり、斑入りの寒河江系統と思われるものがいくつかある。ブルーリーフのギボウシも魅力的なものである。6月になるとアジサイが美しく咲く。玄関の横のアジサイは明るい青紫色である。6月下旬には梅雨の季節と重なって、アガパンサスが長い首を何本もまっすぐに伸ばして花火のように咲き出す。また、ほぼ同時期に深いブルーのサルビア(サルビア・グラティニカ)が咲き出す。いい匂いの多年草で、アゲハや蜂に人気がある。
 受け継いで思うことは、この庭は病害虫に強いことで、無理をしないで木々や草花を楽しめる。若い頃に英語の高校教師をされていたのだから、Yさんはイギリスびいきに違いないのだが、バラは植えられていなかった。引っ越したあと、私はピエールドロンサール(メイヨン作出のフランスのバラ)という、つるバラを植えた。非常に美しい花だが、黒点病に弱い。この花を日本でも無農薬で育てたという報告もネット上で見かける。しかし、そのためには小まめな手入れが必要で、怠け者には無理である。美しい花が病害虫にやられてしまうのは忍び難いが、環境法を専門分野のひとつとして掲げていながら、かげで農薬散布し放題というわけにもいかない。今年も6月に入り、無残にやられてしまったピエールドロンサールを眺めて、Yさんがバラを植えなかった見識に思いをはせた。