流行性感冒(2020年1月)
2020年1月23日
小 澤 英 明
今年は1月1日の夜から発熱し、1月3日に自宅近くの練馬区の診療所でインフルエンザと診断された。タミフルで翌日には熱が下がったが、体がだるい日が続いた。診療所では1時間半待って、診察は簡単な問診と、鼻の穴に突っ込まれた綿棒のキット検査だけで、検査結果が出るまで10分もかからなかった。若いお医者さんから、「残念でした。A型です。ほら、A型のところに赤いマークが出ているでしょう。」と言われ、注意事項のメモ書きをもらった。当日かけつけた大人の多くはインフルエンザ患者だったと思う。私の前の人もA型だったが、私の次の人はB型で、私が出た後の診察室から「オー、珍しい。B型でした。」、「珍しいんですか?」という声が聞こえてきた。お正月もこのような緊急対応を公的機関が行ってくれることはありがたいことで、日本は何だかんだ言われながらも、国民皆保険で、誰しも等しく治療を受けられる体制がととのっていることはすばらしいことだ。
病気になると、とたんに心細くなるのはいつも自分で可笑しいくらいだが、今回は少し違った。ラ・サール中学1年から寮で生活をともにした友人K君が年末27日にインフルエンザで高熱を出して、私が約1週間遅れで追体験するかっこうになったからである。K君は福岡で医者を開業している。最近、中学時代からの友人とひんぱんにメールをやりとりしていて、K君の発熱報告メールも即時に受け取っていた。それを見て、「お大事に」なんて返信していたのだが、今度は私が発熱し、K君からアドバイスを以後毎日もらうことができた。昨年9月から94歳と90歳の両親が私の自宅で同居している。うつさないように用心したが、父親が母親に「流行性感冒だろう。」と話しているのを遠くから聞いて、「そうだ、以前は流行性感冒って言ってたな。」と思った。
熱はすぐに下がったが、体のだるさはなかなかとれず、また、他人にうつすのも困るので、自宅寝室に隔離され、昨年12月に購入して読み切っていなかった本を少しずつ読んだ。その中で、上村淳之の「唳禽抄(れいきんしょう)」(淡交社)が出色だった。木村未来さんの聞き書きで、話し言葉で書かれている。やわらかな京ことばで、読んでいて気持ちがいい。「このやわらかな話し方はどこかで聞いたことがあるぞ、そうだ、美食探訪の土井善晴さんの語り口だ。」と思った瞬間から、土井さんの語りで聞こえてきたから不思議である。しかし、読み進んでいるうちに、土井さんって、大阪の人だったのではと急に疑問がよぎった。寝ながらスマホで調べると、やはり、大阪の人で、私の耳もいい加減なものだと自信をなくした。しかし、さらに調べると、土井さんは、大阪でも船場のことばで、船場のことばは古い京ことばを残しているという解説も見つかった。私には、京ことばと船場ことばとで、どこがどうちがうのか区別はできないが、土井さんの語り口でこの本を読んだのだった。
ここでは、この本の中で気にいった一節を引用する。
「なんでも言うたらええ、という世の中になっているからやろか。『近くの幼稚園の子供の声がうるさい』と言わはる方もいはるそうですな。あんた、どないして大きくなったんや、と言いとうなるわ。」(167頁)