鎌倉(2019年12月)
2019年12月24日
小 澤 英 明
先日、東京R不動産の姉妹サイトの鎌倉R不動産をのぞいていたら、大佛次郎の旧邸が売りに出ていた。鎌倉の雪の下1丁目という一等地で、土地は1049平方メートル、売値は1.5億円である。土地は借地権で、地代が月額24万6000円。建物は、大佛次郎の使用していたものという特別の付加価値があるが、それゆえにそのまま使用してくれる買主を探している。しかし、そのままだと使いにくいと思われる。周囲の道路幅員は狭い。ロケーションは抜群だが、売りにくい物件だと思う。
同じ雪の下1丁目だが、小町通りから少し西側に入ったところに、鏑木清方記念美術館がある。鏑木清方の旧居があった場所だが、建物は取り壊され、跡地に鎌倉市が美術館を開設したものである。鏑木清方の美人画は清潔で好きである。美人画にもいろいろあるが、私の好きなものは、花柳界ものではなく、一般の女性がモデルのものである。私の自宅には、山田喜作、山川秀峰、伊藤小坡の美人画がある。いずれもオークションで購入した。山田喜作のものは、雅叙園の美人画コレクションの一つだったようである。大正時代から昭和前期のものと思われるが、一番気に入っている。山田喜作は鏑木清方の弟子でもある。私が購入した絵(写真参照:うまく写真を撮れなかったのが残念)は、夕方、縁側で女性が提灯を縁の下にかける様子が描かれている。着物も涼し気で、初夏の雰囲気のものである。鏑木清方記念美術館にはこじんまりした中庭があり、小町通りの喧騒から離れてホッとできる。
鏑木清方はかつて矢来町(神楽坂駅のすぐ近く)に住んでいた。矢来町あたりは、昔から文人、画人が多く住んでいたところである。実は45歳の頃、私も2年間だけ矢来町の借家に住んでいたことがある。その建物は旧所有者が画家の小杉小二郎さんだった。垢抜けた絵を描かれるので人気が高い。それと知らずに借家と決めたのだが、大きなアトリエがあったので、仲介の方が、もとは小杉小二郎さんが住まわれていたんですよと耳打ちしてくれた。調べると、祖父も小杉放菴という著名な画家で、放菴は日光の神社の出だとあった。そこで、当時、西村の執行パートナーだった小杉晃先生に、ひょっとして小杉小二郎さんと親戚ですかと聞いたら、これが大当たりで、小杉先生のおじいさんが放菴のお兄さんだとか聞いた。小杉先生から、自分のおじいさんは日光の神社の神主だと(「晃」は日光からとも)聞いた記憶があったから聞いてみたのである。小杉先生は、多くの人に慕われていた。数年前に急逝されたが、昔から鎌倉に住まわれていて、鎌倉のことを愛しておられた。そのことをご存じの遺族が死後遺産の一部を鎌倉市に寄贈された。
鎌倉はいつか住んでみたいところである。鎌倉にはおいしい店が多いが、一番気に入っているのは、「ミシェルナカジマ」である。ここのフレンチは最高だと思う。ランチはお店の利益にはなっていないだろうと思われるほどの価格なのだが、先日、心無い客が料理の出てくるのが遅いと店の奥さんを責めていた。30歳過ぎの女である。こういう女はいやだ。急ぐなら別の店に行くべきだ。帰りがけ、「あんな客のことなんか気にしちゃいけませんよ」と奥さんに話しかけたかった。決してサーブは遅くない。お勧めのフレンチである。