昨年12月に当事務所の開設3周年記念としてモーリシャス沖座礁事故をテーマにシンポジウムを開催しました。この法律時報の論考は、そのシンポジウムの開催の前後を通じて私が考えたことをまとめたものです。事実関係が必ずしも明らかではない中で法的議論を行う難しさを感じましたが、海難事故は、どのような損害が保険でどこまでカバーされるのかわかりづらく、また船主責任制限法や便宜置籍船や定期傭船という特殊な議論が必要な論点は一般国民には非常に理解が難しいので、これらの問題の検討の枠組みだけでも示したいという気持ちで書きました。自然環境が毀損されたときの回復の法的責任が誰にあるのかという根本の問題が、日本では議論が乏しく、また、何の制度も用意されていないことも示したかったことです。私のこの法律時報の論考にはおそらく海事法の専門家から多くの批判が寄せられると思いますが、この事故をきっかけに、海難事故や自然環境損害の法的責任及び社会的責任の議論が深まればと思っております。SDGsという言葉が最近流行ですが、少なくとも法律家には、この事故で提起されたような、社会で現実に発生している回復されない損害の法的責任や社会的責任の問題を考えてほしいと私は思っています。
弁護士 小澤 英明