顧問早水輝好「カーリング」

コラム第16回

カーリング

2022年4月21日
早   水 輝   好

 2月に行われた北京オリンピックの女子カーリングで日本が銀メダルを獲得したのは記憶に新しいところである。日本代表は、カーリングが盛んな北見市常呂町出身の選手が主体のチーム「ロコ・ソラーレ」。前回の平昌五輪の銅メダルに続く快挙ということで、彼女たちの笑顔とともに話題になった。

 私はかなり前からのカーリングファンである。最初の記憶は1998年長野オリンピック。勝てば決勝トーナメント進出という試合で、スキップ(主将)の敦賀信人選手(19歳)が最後に素晴らしいショットを決めたのに、直後に相手の米国のスキップがその上を行く絶妙のショットを決めて敗戦、敦賀選手が座り込んだシーンは切なかった。
 男子はその後オリンピックに出られず、前回の平昌で久しぶりに出場したが、女子は長野から連続出場している。ただ、私は長野での女子の試合は記憶になく、女子の試合を認識し始めたのは8年後の2006年トリノ五輪からである。オリンピックでの活躍で最近は人気が出てきたようだが、やはりフィギュアスケートなどと比べてマイナー競技であることは否めない。スポーツ誌Numberの五輪特集でも掲載されていない時があった。

 カーリングは30~40m先の標的めがけて20kgもある「ストーン」と呼ばれる丸い石を滑らせ、相手チームより中心に近いところにストーンを置いたチームが得点するゲームで、「氷上のチェス」とも言われる。2チーム各4人が交互に2投ずつする間にいろいろと作戦をたて、先の展開も読んでストーンを滑らせるからである。また、大差がつけば試合の途中でも負けているチームがConcede、すなわち負けを認めることで試合が終了する。将棋の「投了」に当たる。しかもConcedeされて勝ったチームは、相手と一回り挨拶をしてからでないと喜んではいけない、ということらしい。さすが紳士の国イギリス発祥のゲームである。
 カーリングは、単にストーンを滑らせて置くだけでなく、相手チームのストーンを(時には玉突きのように2~3個同時に)はじき出したり、氷を選手がブラシでこする「スイープ」によって滑り方を変えたりもするので、展開が複雑になり、見ていて飽きない。選手の声がマイクを通して聞こえるのも面白い(家内はうるさいから嫌だと言うが)。五輪予選の時に、会場の氷の状態をなかなか把握できず「なんなんだ、このアイスは」とつぶやいた選手の声が聞こえて、解説者も苦笑していたことがあった。4人で泣き笑いして声をかけあいながらプレーするのも人間らしくていいと思う。

 ただ、やはりいい成績を残すのは並大抵のことではない。今回、ロコ・ソラーレはコロナの影響も考慮して昨年9月から帰国せずにカナダで練習し、直接北京に渡ったらしい。そこまでするとなると、もはや普通のアマチュアにはできない。
 スポンサー探しも重要である。ロコ・ソラーレは今でこそ地元の企業が支えているが、立ち上げ時は大変だったようだ。ロコ・ソラーレに五輪代表決定戦で敗れたフォルティウスは、当時は「北海道銀行」だったが、敗戦後にスポンサー契約が切れ、新しいスポンサーを探すことになった(幸い見つかったようだが)。北海道銀行は若い選手主体の新チームをスタートさせたそうで、厳しい世界である。
 そのせいか、カーリングに限らず、最近はスポーツ選手が試合後のインタビューで「多くの方々に支えられて感謝」という発言をすることが多い。謙虚でいいとは思うが、あまり過剰に意識せず、選手には純粋に自分のためにスポーツをやって欲しいと思うこともある。

 カーリングは選手寿命が比較的長く、女子でも40代の選手や母親になってから復帰する選手が少なくない。8年前のソチ五輪で金メダルのジェニファー・ジョーンズ選手(カナダ)は47歳で北京五輪に出場(子供2人)、平昌で金メダルのアンナ・ハッセルボリ選手(スウェーデン)はその後出産し、復帰した今回の北京で銅メダルを勝ち取った。日本でもフォルティウスの船山弓枝選手は40代のお母さんだが、まだこのような例は少ない。もっと続いて欲しいと思う。
 また、前述のジョーンズ選手は本職が弁護士だそうだし、以前ドイツには大学の先生という選手もいた。特別な環境の中にいる特別な人でないと勝てないというのではなく、このように別のことをやりながらスポーツをするアマチュア選手も活躍して欲しいと思うのだが、競技レベルが上がるとなかなか難しいのだろうか。長野五輪のスキップ・敦賀信人選手はしばらく競技を続けていたが、本業の漁師との両立が難しいと、若くして競技継続を断念したと聞く。彼はその後長くNHKで解説を務めていたが、最近地元常呂町の高校生チーム(男子)のコーチに就任し、見事昨年の全日本選手権準優勝に導いた。勝利にはつながらなかったが、決勝で彼の助言により高校生が決めた針の穴を通すようなショットは素晴らしかった。指導者としての今後の活躍を期待したい。

 最近はNHKがBSでカーリングのいろいろな試合を中継してくれるし、録画も簡単にできるので、たくさんの試合を見ることができる。ただ、カーリングの試合は1ゲーム3時間ほどかかり、五輪でも世界選手権でも出場チーム総当たりの予選をやってから決勝トーナメントになるので、全部見たら他のことができなくなる。気の弱いファンの私は、生中継はドキドキしてまともに見られないので、とりあえず録画して、勝った試合を後から少しずつ見ることにしている。実はまだ五輪の試合も「観戦中」である。
 五輪後もスポーツの世界に休みはない。3月に開催された世界選手権には、五輪予選の裏で行われた日本代表決定戦を勝ち抜いた中部電力チームが出場したが、コロナ陽性者が出て残念ながら途中棄権となった。この世界選手権を制したのは、北京五輪準決勝でロコ・ソラーレに敗れたスイスチームで、決勝まで14戦全勝の圧勝だった。五輪で予選リーグを1位で突破しながらメダルなしに終わった雪辱を果たしたと言える。

 これで今冬のカーリングシーズンも終わったと思っていたら、五輪とコロナの影響で全体のスケジュールが押しているらしく、まだミックスダブルスの世界選手権が残っていることに気づいた。4月23日開幕である。5月には日本選手権もあるので、新しいチームも含めてどんな展開になるのか、楽しみである。
 そもそも昨年の日本選手権は当初横浜で開催予定だったので見に行くつもりだったのに、コロナの影響で無観客開催となり、会場も稚内に変更になってしまった。コロナが収束したらぜひ首都圏で開催して欲しいものである。

雑誌Numberの五輪特集でのカーリングの記事
左から北京、平昌、バンクーバー、トリノで、ソチと長野は記事がなかった