顧問大村謙二郎「都市プランナーの雑読記-その45/ロナルド・P・ドーア(青井和夫・塚本哲人訳)『都市の日本人』」

都市プランナーの雑読記-その45

ロナルド・P・ドーア(青井和夫・塚本哲人訳)『都市の日本人』岩波書店、1962年

2022年6月7日
大 村 謙 二 郎

 ドーアさんはイギリス生まれの社会学者で、長年、日本の社会、経済、歴史を研究され、日本と英国との比較や、日本社会の特質、日本経済の競争力などについて多くの著作を発表されてきた方です。日本びいきの方だったのですが、バブル以降の日本社会が新自由主義、市場万能主義のアングロ・サクソン型経済に同調し、変質していくこと、日本社会の良さが失われていくことに、幻滅を感じた批判の書、『幻滅 外国人社会学者が見た戦後日本70年』(2014年)を刊行されています。

 『都市の日本人』は1925年生まれのドーアさんが、戦後、留学生として東京にやってきて、昭和26年から28年にかけて、東京の台東区と思われるところの仮称「下山町」に滞在して、約300世帯ほどの近隣地区における日本人の生活実態を明らかにした調査に基づくものです。原著は英文で1958年に刊行されたものを社会学者の青井、塚本の両氏が日本の読者には不必要な部分を割愛して、翻訳、出版したものです。
 20代後半のドーアさんが地域に入り込み、下山町に住む人々に詳細なインタビューを行い、本書をまとめています。
 日本社会は戦後直後で、まだ貧しい時代でした。今から70年近く前の東京の下町地区に住む人々は、現在とは及びもつかない、生活スタイル、価値観ですが、それでも、現代の日本社会に通底するところもあり、懐かしい気持ちも感じます。ドーアさんは下町滞在中、近隣の人々と親しくつきあい、その人たちの生活ぶり、交際の仕方について愛情を込めて描くと同時に、社会学者としての冷静な目で観察、分析を連ねています。
 たんなる生活実態調査でなく、日本の家族制度、夫婦間関係系、宗教意識、義理と人情などの日本社会の歴史、伝統をそれこそ江戸期のそれとも対比させ、一般論を提示しながら、下山地区の実態をイギリス社会との比較も持ち込みながら描写、分析しており、一級の社会学書の古典だと思います。ドーアさんの著作に影響されて、彼の初期の頃の著作をと思い、古書マーケットで入手した本です。
 20代でこれだけの著書をものにされたドーアさんの力量にも驚嘆しました。