顧問大村謙二郎「都市プランナーの雑読記-その59/笹沢信『評伝 吉村昭』」

都市プランナーの雑読記その59

笹沢信『評伝 吉村昭』白水社、2014.07

2023年5月18日
大 村 謙 二 郎

荒川区に開設された吉村昭記念文学館に影響を受けて、読んだ吉村昭の評伝です。
著者の笹沢さんは長年、山形新聞で文化欄を担当されると共に作家活動もされていた方で、井上ひさしや藤沢周平の評伝も著されている方のようです。吉村昭の評伝を完成させた直後に亡くなられ、これが遺作だそうです。
吉村昭の生まれた環境=荒川区日暮里からはじめて、結核での闘病生活時代と文学への傾斜、作家修業時代など、ほぼ年代順にたどりながら、吉村の膨大な作品群について、的確な引用を交えて、解説しています。
文体も吉村昭の文体に似て、抑制のとれた、緊張感のある文体で多くの事実を積み上げて、吉村昭の作品の魅力、背景、特徴を読み解いています。
吉村の歴史小説のほんの少ししか読んでいないのだなとあらためて思いました。吉村が長編小説と並んで竹の節にあたるものとして、短編小説をいかに大切にし、力をこめて取り組んでいたかもよくわかりました。
吉村記念文学館には吉村の書斎が再現、展示されていました。彼は毎朝8時過ぎに書斎に行き、夕方までそこで執筆を行い、夜は好きなお酒を飲みながらのんびりする。規則正しく、ゆったりした、職人のような生活をしていたそうですが、そういった雰囲気が感じられる、きちんと整理された書斎、仕事場だなと感銘しました。彼は律儀な人で、新聞の連載を頼まれた場合、前もって数ヶ月先まで原稿を用意していたようで、締め切り厳守というか、まさに職人仕事の人です。
吉村は79年の生涯で、小説、紀行、エッセイ、句集など129冊の本を残しているそうです。私など、多分その6分の1程度しか読んでいない感じです。以前読んだ本もまた読みたいし。
吉村昭作品の魅力を知る上で大変有益な本でした。