顧問大村謙二郎「都市プランナーの雑読記-その53 『くまの根 隈研吾東大最終講義10の対話』」

都市プランナーの雑読記その53

隈研吾編著『くまの根 隈研吾東大最終講義 10の対話』東京大学出版会、2021.05

2022年11月7日
大 村 謙 二 郎

 隈研吾さんが、2020年3月末の東京大学退職を記念して、「隈研吾教授最終講義 工業社会の後にくるもの」と題して、一人講義でなく、10回シリーズで最終講義を公開しながら行った記録を編集、刊行したものが本書です。
 隈さんが自分の最終講義を一人でしゃべる形で、何かを教授するというより、隈さんの建築家人生を造りあげていく上で、大いに恩恵を受けた、主として、先輩、師を招いて、まず、隈さんがその回のイントロ講義を行い、その後、ゲストによる講演をしてもらい、さらに招いたゲストと鼎談を繰り返すという形の10のテーマ講義開催で、くまの根っこをあきらかにして、今後の建築、都市を展望しようという企画です。
 隈さんの卓抜なアイディア、企画もあって、大変面白い本に仕上がっています。隈さんの作品について、好悪をいえば、好きになれない、どちらかという隈さんの独特の個性や自己顕示欲を感じるようで、嫌いな作風の建築家と思っていましたが、本書を読んで、隈さんの行動半径の広さ、人脈の深さ、論理構成力、デザイン力、建築理論など、並大抵の人ではなく、彼が日本国内のみならず、世界中で活躍している理由がある程度理解できました。希有な才能の人であり、そのエネルギー、行動力には驚嘆させられます。
 最終講義シリーズは2019年4月20日の第1回から始まり、最終回は2020年7月18日。コロナ禍ということもあり、東京-ロンドンをむすぶ、オンライン講演会ということで終了しています。延べ22人の各界の専門家たちが登場しています。
 私にとって、とりわけ面白かったのは次の各回です。
 「集落からはじまった」における、原広司さんの集落研究と隈さんとの関わりで、原広司さんの超人的活動ぶりとそれに引き寄せられついていった隈さんの若さは興味深いです。
 「家族とコミュニティの未来」における、上野千鶴子さんのいつもの上野節の炸裂とそれと連動した、三浦展さんの隈さんとの関わりにおける、トークも面白かったです。その他、内田祥哉、進士五十八、高階秀爾、藤森照信、御厨貴など、ある程度知っている錚々たる人の発言はさすが、一流の人の発言で、いろいろ教えられるところが多かったです。
 最後の回の「コンピュテーショナルデザインとクラフト」における、建築史家でロンドン在住のマリオ・カルポ氏のポストコロナの都市、コミュニティのあり方の議論、VRの専門家で隈さんの中学時代からの学友、廣瀬通隆氏の議論も刺激的で面白かったです。いずれにせよ、才人隈研吾の華麗な人脈が活用された、豪華な最終講義シリーズであり、さすがカリスマ建築家、隈さんの面目躍如たるところがある本です。