大村謙二郎 雑読記その51/柄谷行人『柄谷行人講演集成1995-2015思想的地震』

都市プランナーの雑読記その51

柄谷行人『柄谷行人講演集成1995-2015 思想的地震』ちくま学芸文庫、2017.01

2022年10月5日
大 村 謙 二 郎

 以前読んだバイヤールの「読んでない本について堂々と語る方法」ではありませんが、読んでもはっきり理解できたか、読み切ったといえるのか、よくわからない本はどういうカテゴリーに属させれば良いのでしょうか。
 本書は柄谷行人がちくま学芸文庫のために、1995年以降、彼がこれは掲載に値すると思った講演を収録したものです。
 1995年9月に、その年の阪神淡路大震災をうけて、ソウルで行った講演「地震とカント」から2015年1月の講演「移動と批評-トランスクリティーク」まで11編の講演録が掲載されています。話し言葉を書き起こしたものであり、比較的わかりやすく書かれているとは思います。しかし、その語っている内容を咀嚼して、要約的に紹介するのは至難のことです。
 それでも、こういう風に物事を捉えるのだと、哲学的、思想的論理が展開され、頭がリフレシュされます。
 柄谷はかつて「隠喩としての建築」という著作を刊行し、それを契機として磯崎新と知り合い、国際的な建築家のネットワークに係わるようになり、講演することも多くなったようです。この書には「都市プランニングとユートピア主義」(2009年5月トルコの大学での講演)も収録されています。
 私には11編の中でも「帝国の周辺と亜周辺」(2014年5月/釜山大学)が興味を持って読むことができました。韓国が中華帝国の周辺だったのに対して、日本が亜周辺だったことによる、両国家の微妙な違い等が指摘され、蒙を啓かれました。日本の特質を国際的、歴史的な文脈で位置づけることは多くの批評家が行っています。この柄谷の指摘もいろいろ、示唆深い点があります。