大村謙二郎「都市プランナーの雑読記-その55/川本三郎『そして人生はつづく』」

都市プランナーの雑読記その55

川本三郎『そして人生はつづく』平凡社、2013年

2023年2月1日
大 村 謙 二 郎

川本さんは2008年の6月に、35年連れ添った最愛の奥さんを亡くし、子供もいないので一人暮らしを続けています。彼の最愛の奥さんを悼む手記「いまも君を想う」を本屋で立ち読みして、奥さんを亡くした男やもめの心境に同情と共感を覚えたものです。
この人の書く、旅行エッセイ、まちあるきエッセイはお気に入りで、比較的多く読んでいます。さりげなく、蘊蓄が書かれていて好感の持てる作家です。
彼は中央線沿線で生まれ、育った人で、中学は麻生中学でした。実は都市工時代の同期で親友のN君(残念なことに2009年に亡くなりましたが)と川本さんとは麻生中学で同級生でした。N君は浪人して駒場を裏表していたので、歳は私より3つ上でしたが、ウマが合って大変親しくしていました。
本書はユニークな都市雑誌「東京人」の2010年7月号から2012年11月号まで連載した「東京つれづれ日記」を中心に彼がその間に書いたエッセイを編んだものです。2章構成で第1章が「東京つれづれ日誌」で第2章が「家事一年生」で、奥さんをなくしてからの身辺雑記を含め、いろいろな思い出を語っています。
今回読んだエッセイの中に「山口昌男先生の試験は「縄文時代の日記」」というエッセイがありました。
有名な文化人類学者の山口昌男さんは20代の若いときに麻生中学の日本史の先生をしてたいたそうです。この当時の麻生学園は自由な気風の学校だったようで、山口先生も相当好き勝手な授業をしていたらしいのですが。そういった当時のことを回想しながら、川本さんは次のように書いています。
「麻布という学校は勉強が出来なくても一芸に秀でているものは尊敬されるという校風があった。たとえば「鉄道唱歌」を一番から六十六番まで完璧に歌ったやつはそれだけで大いに尊敬された。」と書いているのですが、この「鉄道唱歌」を完璧に歌ったのは何を隠そうN君なのです。
都市工の同級生のコンパなどでN君が歌うことを知っていたので、これはN君のことを書いているのだなと、にんまり、うれしくなりました。
川本さんが書いている房総半島の小さな町、八高線沿線の小さな町はなかなか魅力的でいってみたい気分になります。川本さんはグルメではないのですが、すがれた町を訪れ、なんとなく居心地の良さそうな食堂、居酒屋にふらりと入り、ビールを美味しそうに飲む文章に心が癒やされます。