「都市プランナーの雑読記-その30/猪木武徳『自由の思想史 市場とデモクラシーは擁護できるか』」顧問大村謙二郎

都市プランナーの雑読記-その30

猪木武徳『自由の思想史 市場とデモクラシーは擁護できるか』新潮選書、2016.05

2021年6月30日
大 村 謙 二 郎

 猪木さんは経済学の大家ですが、文藝、思想などの幅広い教養に裏打ちされた、バランス感覚豊かな論を展開される方で、この人の著作は安心して、信頼感を持って読めます。
 この書は雑誌連載の「自由をめぐる8つの断章」を加筆修正したものです。猪木さんの知的、思想的遍歴を交えながら、8つの章で自由について幅広く論じています。凝った構成でそれぞれの章は8つの節から成っています。特に8の数字に意味はないのかも知れませんが、音楽における8小節がひとつのテーマを構成すること、中華料理は8皿がひとつのコースになることをある程度念頭において、8を選んだと「はじめに」触れています。
 8章は次のようになっています。
1.守るべき自由とは何か
2.自由のために闘ったアテナイの人々
3.古代ローマ人の自由と自死
4.信仰と自由 宗教と政治
5.教える自由、学ぶ自由
6.言論の自由、表現の自由
7.賭ける自由と経済発展
8.恒産・余暇・自由

 全体で、まとまった主張があるわけでなく、その意味では断章ですが、それぞれ味読すべき、考えさせられる論述があります。
 特に印象深かったのが最後の章で、大学の存在価値として、生半可な職業教育の場として生き残りをかけるのではなく、「国際的な知的競争の場で求められる言語表現を中心とした教養教育に力を注ぐことによって比較優位を保つことができる」との指摘は共感するところ大でした。
 「自由な学芸は、実用目的のために利用されるとか、何らかの社会的な機能を果たしているといった理由で正当化する必要のない精神活動」であり、現在の大学をはじめとする高等教育機関が実益追求にあまりに傾斜していることに警鐘を鳴らしています。
 世界での、あるいはアジアでの大学ランキングや格付けに一喜一憂する大学に未来はあるのかなと憂慮します。