新春インタビュー

岩瀬香奈子さんにインタビュアーになっていただいて、当事務所の弁護士小澤英明と顧問の鷺坂長美にインタビューをしていただきました。岩瀬さんは、株式会社アルーシャの代表取締役であり、その事業において難民を積極的に雇用されるなど難民の支援に熱心に取り組んでおられるとともに、長年弁護士のヘッドハンティングにも従事され、弁護士業界に通じておられます。

岩瀬:新年おめでとうございます。事務所開設から1年たちましたが、いかがですか。

小澤:おかげさまで順調です。西村あさひからのクライアントが引き続き依頼してくださっていますので助かっています。また、西村あさひの弁護士からの法律相談もあり、西村あさひとの関係も良好です。

岩瀬:それはよかったですね。ところで、本日は、新事務所で立ち上げられた「企業不動産法研究会」について、どういうものかおうかがいしたいと思います。

小澤:これは、企業の法務部の方々を念頭に置いて、まずはセミナーを毎月開いて、企業不動産法実務を勉強する場を提供するものです。企業の法務部の方々は不動産法実務を整理して学ぶ機会がないようだと常々思っていました。私も企業の方々に不動産関係のアドバイスを自信をもって行うまでには相当に時間がかかったのです。そこで、無駄な時間を費やして中途半端な知識で考えるよりも、最初に重要で確実なところを理解して、そのうえで本当に悩むべきところに時間を使うべきだとかねがね思っていました。

岩瀬:なるほど。

小澤:若い弁護士も同じ状況ですので、一昨年「企業不動産法」(商事法務)を出したときは、西村あさひの若い弁護士にも役立つように書いたのです。西村あさひの若手弁護士には読めばわかるように書いたつもりです。ただ、企業で不動産の法律問題に直面する人には多様なバックグランドの人がいます。内容を口で説明した方がわかりやすいと思ったので、昨年4月からセミナーを始めました。無料で行っています。参考までにセミナーのテーマを申し上げますと、昨年は、4月「不動産売買契約の構造・土地」、5月「建物(違反建築物・既存不適格建築物)・取引関係者」、6月「売主の責任、宅建業者の責任」、7月「廃棄物処理法・リサイクル法の常識」、8月「区分所有法の常識」、9月「収益不動産」、10月「都市計画の基礎」、11月「不動産開発」、12月「民法改正と不動産取引」でした。今年は1月に「設計・工事」を終えまして、2月に「事故と法的責任」、3月に「法令改正回顧」を予定しています。

岩瀬:すごく盛りだくさんですね、しかも無料ですか。それは、事務所の宣伝にもなるということからですね。

小澤:そうです。ただ、最初は、事務所を開設したので、私自身が何をクライアントの方に提供できるかを知らせたいという動機が強かったのですが、セミナーを始めると、聞き手は若い人が多いので、長年実務で学んだことを教えたいという気持ちが強くなりました。

岩瀬:どのくらいの人数の方が毎回参加されるのですか。

小澤:申し込みはいつも50人くらいで、1~2割の欠席はあります。セミナーを聞いていただくには「企業不動産法研究会」に会員登録していただくことが必要なのですが、昨年末で99社が会員登録しています。

岩瀬:先日、会員企業のリストを見せていただいたのですが、大企業ばかりのように思いました。どうやって会員企業は集められたのですか。

小澤:大企業ばかりでもないのですが、上場企業に幅広くご案内をさしあげたため、大企業が多くなりました。

岩瀬:会員登録はどういうシステムになっているのですか。

小澤:私の方で対応できる企業の数に限度がありますので、今は原則として新規募集を行っていません。

岩瀬:毎月セミナーとなると準備が大変そうだとも思うのですが、どうですか。

小澤:実は、私だけでなく、顧問の三先生にもお手伝いしていただいているので、それほどでもありません。

岩瀬:鷺坂先生もセミナーの講演をされたのですか。

鷺坂:はい。昨年7月に「廃棄物処理法・リサイクル法の常識」のテーマで話しました。私は、早稲田大学法学部で「環境法」の授業をもっています。廃棄物処理法は二コマ(90分×2)をあてて講義しているのですが、「企業不動産法」のセミナーでは、一回で(2時間、途中10分休憩)話さなければならなかったので、少し駆け足になりました。

岩瀬:学生さん相手の講義と企業の方々を相手に講義するのとでは勝手が違うということがありましたか。

鷺坂:学生の場合は、完全に受け身です。したがって、私が大事だと思うところを丁寧に教えればいいのですが、企業の方々を相手にするとなるとそうはいきません。事業者目線というものが必要です。例えば、学生相手ということになると、家庭から出る一般廃棄物と事業活動からの産業廃棄物について全体を理解することが大変重要ですが、やはり事業者目線ということになれば産業廃棄物に重点を置き、さらに廃棄物処理業者というよりも排出事業者としての立場に重点を置くということになります。実際の講義でうまくいったかどうかは分かりませんが(笑い)。それともう一つ。聞かれる方々の中に廃棄物の処理にかかわっていて廃棄物処理法に詳しい方もおられるかもしれないということです。しかし、ここは基本的に企業法務の方が中心と聞いていましたので、基本的には、ほとんど知識や経験のない人を想定してお話ししました。

岩瀬:小澤先生は鷺坂先生に何か注文を付けられたんですか。

小澤:いいえ、好きにやってと言ったと思います。気持ちよくやってもらうことがまず必要でしたので。しかも、今回は、「廃棄物処理法・リサイクルの方の常識」というタイトルでしたので、それでよかったんです。8月には鎌野先生に「区分所有法の常識」、10月には大村先生に「都市計画の基礎」というテーマでのお話をお願いしました。その間、私も休めて楽できました。

岩瀬:それだけの数の登録会員がおられると、事務処理だけでも大変でしょう。

小澤:そうですね。ただ、当事務所には、事務局に種村さんという西村でかつてパラリーガルをつとめていた女性がおりまして、この種村さんがスーパーウーマンで、何でも手早く処理してくれますので、すごく助かっています。また、今の時代は、メールで多数の会員に同時送信ができますので、昔に比べると通信が格段に楽です。

岩瀬:セミナーでは会員のご質問も多いですか。

小澤:東京では出席者がいつも40人ほどいますし、参加している人の問題意識もさまざまなのと、時間の制約から質問はその場では受け付けていません。質問は、セミナーの後に送るアンケートに書いてもらっています。

岩瀬:それに答えておられるのですか。

小澤:簡単なことはできるだけメールで答えるようにしています。

岩瀬:先ほど、東京ではとおっしゃっていましたが、他でもセミナーをやっておられるのですか。

小澤:大阪と名古屋と福岡でやりました。ただいずれも少人数です。登録企業で大阪ベースと名古屋ベースの企業があって、東京に出てこられるのが難しいと思われましたので、出張セミナーをやりました。福岡は、九州が私の出身地なので、出身地サービスで行っています。いずれも少人数ですので、質問も途中で自由に出してもらっています。

岩瀬:それは大変ですね。

小澤:東京以外は義務的なものとしてはやらずに、東京で反応がよかったものを、やるという程度です。夏と12月に各地でそれぞれ2回やりました。

岩瀬:セミナーは今年も引き続きやられるのですか。

小澤:3月まではスケジュールが決まっています。東京では4月以降もやりますが、内容をどうするか現在考え中です。東京以外の進め方は考え中です。

岩瀬:これだけお聞きしていると、お仕事に影響が出ないか気にもなりますが、お仕事とのバランスはどうとられているのですか。

小澤:今のところ、「企業不動産法研究会」は、セミナー中心で、自分の知っていることをお話しするということが多いのですが、いずれは、こちらが一方的に教えるというのではなく、双方向のゼミ形式のものも考えています。と言いますか、既に、おもしろそうな判例が出れば、企業不動産法研究会の会員の希望者を対象にゼミ形式で、「判例研究会」を開いています。昨年は、賃貸借予約の裁判例、耐震性欠如の建物と賃貸借終了の正当事由の裁判例について、3回やりました。これには顧問の鎌野先生にも出ていただいております。

岩瀬:なかなかですね。

小澤:この「判例研究会」は、会員サービスでもありますが、私が最新の判例をキャッチアップし、また、多くの企業の方々の意見を聞いて、ひとりよがりになりがちな自分の判断を見直すきっかけにもなるので、仕事にも直結しています。あと、企業不動産法研究会ではなく、都市法研究会というものも数社とやっています。都市部の再開発に経験の豊富なデベロッパーやゼネコンや設計会社がメンバーです。国土交通省の方にも出てもらっています。再開発というと、すぐに「地上げ」を連想してしまうせいか、法律的な研究が非常に手薄な分野です。したがって、役所との協議で役所がOKすればOKみたいな話が多くて、私は問題だなと思っています。現時点では、経験豊富なデベロッパーやゼネコンや設計会社に話題を提供してもらいながら、法的検討を加えています。この研究会には顧問の大村先生だけでなく、鷺坂君にも出てもらっています。鷺坂君は、環境省の前は自治省にいて、地方自治に詳しいのです。

岩瀬:鷺坂先生も多方面にご活躍なんですね。

鷺坂:この都市法研究会は、デベロッパーやゼネコンや設計会社の最先端の話を聞けるので、楽しいんですよ。また、若いころ固定資産税の担当をしていましたので、第二次の都市再開発法の改正(1980年)にはかなりお付き合いした記憶があります。そういった意味でも大変懐かしい思いで研究会に参加しています。

小澤:実は、今年から「企業環境法研究会」というものも立ち上げます。

岩瀬:えっ?

小澤:鷺坂君に協力してもらって、鷺坂君の幅広い人脈を活かした講師陣を備えます。もう、一応のスケジュールもできているんですよ。4月は「土壌汚染と企業責任」、5月は「廃棄物と企業責任」、6月は「アスベストと企業責任」、7月は「企業のデータ改ざんと公害規制法」、8月は「地球温暖化とパリ協定」、9月は「企業公害の歴史」、10月は「中国の環境規制」、11月は「環境アセスメント」、12月は「ESG・SDGs」、1月は「化審法・化管法と化学物質の国際動向」、2月は「放射性物質による環境汚染」、3月は「遺伝資源とABS規制」を考えています。

岩瀬:もりだくさんですね。「企業公害の歴史」なんかもいいですね。必要ですよね。

小澤:基本ですからね。

岩瀬:ESG投資もありますね。これは、会員になるにはどうしたらいいのですか。

小澤:当事務所で対応できる企業の数に限界がありますので、当面、当事務所からご案内状を差し上げる企業を対象にしたいと考えています。

岩瀬:企業環境法研究会となると、鷺坂先生のご活躍の場がますます広がりますね。

鷺坂:私一人ではもちろん対応できないので、環境省時代に一緒に仕事をした人達にお手伝いいただいて、最新の情報を提供していきたいと思います。企業環境法セミナーも無料で行うことになっています。今や企業の活動といえども環境配慮抜きには考えられません。大変公益性の高いセミナーになるのではと期待しています。

小澤:企業が環境法の精神を理解して行動すれば、日本の社会がますますよくなると思います。そういうことの手助けになればと思います。もっとも、環境法となると、金銭に直結しないものもあるので、企業の中では関心をほとんどもてない人もいるのです。しかし、聞きに来る人を啓発するようなこともやって、後日役立ったと思ってもらうことでもいいのではないかと思います。環境法を勉強して一体何になるのか、と思う人に環境法を勉強したいと意欲をもってもらうことは簡単ではないと思っています。一つのやり方は、「環境法をおろそかにしていたので、企業がとんでもない責任を負わされたこともあるんですよ。」とか「時には役員が株主代表訴訟でやられた事例もあるんですよ。」という方向から攻める、言葉はかなり悪いですが。

岩瀬:脅かすというんでしょうか(笑い)。

小澤:もう一つは、長期的に考えると、社会の役に立つ企業が社会から選ばれるのだから、環境法は企業に何を求めているのか理解しないといけないですね、という方向で攻めるというか、別に私が攻める必要もないですが。

岩瀬:社会に貢献する企業が必ず栄えるという信念ですね。

小澤:そう。

岩瀬:大事ですよね、そういう考え方。環境法にはそういう観点で学ぶべきことはたくさんありそうですね。
本日は今年の抱負もたくさんお聞きできました。ますますのご活躍と事務所の発展をお祈りしております。

小澤・鷺坂:ありがとうございます。