「大分の温泉」顧問鷺坂長美

大分の温泉

2020年8月3日
鷺  坂 長  美

 大分県庁には1983年5月から1988年3月まで約5年弱勤務しました。その間仕事では県内かなり回ったと思いますが、いざプライベートな観光というとどのくらい回ったか、はなはだ心もとない感じです。子供が小さかったこともありましたが、家族旅行の機会もあまりなく今では家族に申し訳ない気持ちでいっぱいです。
 大分県内の観光といえば温泉巡りがあります。もともと天領だった日田温泉、熊本県との県境にある杖立温泉、日本屈指の炭酸泉である長湯温泉(竹田市)など大分県には18市町村の中で源泉のないところは2市町村のみです。源泉数も日本一です。県全体で約4,500、中でも別府市約2,200、由布院市約1,000となっています。
 別府温泉は源泉数、湧出量ともに日本一です。「別府八湯」といわれるように多くの泉質に恵まれた特色のある温泉があります。有名なのが鉄輪温泉の「地獄めぐり」です。別府観光の定番ですが、小学生のころ家族旅行で来たことがありました。郷里の名古屋からYS11に乗って大分空港に降り立ったことを思いだします。国産プロペラ機ですが、飛行中揺れが大きく、大分空港に着陸できた時はほっとしました。別府地獄めぐりは「海地獄」「血の池地獄」「坊主地獄」「竜巻地獄」「白池地獄」などなどですが、真っ赤な「血の池地獄」、ぶくぶくと泡がでて坊主のように見える「坊主地獄」等はこども心にも印象が深かったのでしょう。鮮明な記憶が残っています。明礬温泉の泥湯は硫黄分等で湯が白濁している温泉ですが、当時2歳ぐらいの長女の硫黄の匂いが一週間ほどとれなかったことが思い出されます。その他観海寺温泉のリゾートホテル(地熱発電で有名)にも行きました。
 環境省の現役のころ別府温泉の関係者から要望を受けたことがあります。温泉に含まれるほう素、ふっ素についての排水基準についてです。これらは大量に摂取すると健康影響があるということで水道水水質基準等を参考に環境基準が設定され、2001年からは排水基準が設定されました。ただし温泉を利用する旅館業を含むいくつかの業種については直ちに対応できないとして3年間の暫定排水基準が適用されました。3年ごとの期限がくればその都度業界が心配になって国会でも議論になり、メディアでも日本の温泉、日本文化が衰退してしまうのでは、などと取り上げられました。温泉については既存の排水処理技術では難しい面があり、また、自然湧出する温泉についてどう考えるのか、水質汚濁防止法の対象にならない日帰り温泉はどう考えるのか等の課題がありました。排水基準がどうなるかは業界にとっても死活問題ですので、大きな話題になるのはやむを得ません。そこで「温泉排水規制に関する検討会」を立ち上げ、業界の方にも入っていただきました。次の期限の議論を早くから始めることでそうした動きは終息していったのではないか、と思っています。
 ところで由布院温泉については最近新たな発見がありました。前のコラムでもふれましたように地域づくり活動、「一村一品運動」でも大変有名な温泉地です。「明日の由布院を考える会」の中心メンバーによる西ドイツの温泉保養地への視察旅行(1971年)が由布院の地域づくりの原点でその方向性を決めたと言われています。そのメンバーの一人が亀の井別荘の中谷健太郎さんです。中谷さんの著書「たすきがけの湯布院」という本に、その西ドイツ視察旅行のくだりがありますが、視察先などその相談をした中谷さんの友人が、私も当事務所の小澤弁護士も大学1年生の時のドイツ語の先生、平尾浩三先生であるということが書いてありました。大分県庁在職中は全く知りませんでしたが、平尾先生には一昨年まで同期のクラス会には必ずご出席されてドイツ語の詩の授業をしていただいていました。不思議なご縁を感じた次第です。

(中谷健太郎著「たすきがけの湯布院」)