インタビュー 鷺坂 長美

岩瀬香奈子さんにインタビュアーになっていただいて、当事務所メンバーにインタビューをしていただきました。岩瀬さんは、株式会社アルーシャの代表取締役であり、その事業において難民を積極的に雇用されるなど難民の支援に熱心に取り組んでおられるとともに、長年弁護士のヘッドハンティングにも従事され、弁護士業界に通じておられます。

岩瀬;今回は小澤英明事務所に顧問としてお手伝いされる鷺坂さんに今後の抱負等をお伺いしたいと思います。まず、はじめに、鷺坂さんのことをお聞きしたいと思いますが、先日「環境法の冒険」という本を出版されたとお聞きしましたが、どのような本ですか。

鷺坂;私はもともと国家公務員で、2012年に環境省水大気環境局長で退官しています。退官後も環境法について早稲田大学で講義を続けていましたが、環境法の興味深い点とか面白い点、学んでいて楽しい点を学生に伝えるのに苦慮していましたので、そういった点をまとめた参考書が欲しいと常々思っていました。講義のためのノートも貯まってきましたので、自分で書いてみようということで書いた本がこの本です。環境法の面白い点を若いこれからの学生にわかってもらい、環境法に興味を持ってもらいたいと思います。難しい法律の教科書のようなものではなく、法律ができたときの背景や社会状況等の説明に心掛けています。

インタビュー 鷺坂 長美

岩瀬;私も手にしてみました。これまで法律というとなにか小難しい感じで距離感がありましたが、水俣病やアスベスト被害等その時代背景も含めわかりやすく書かれていて、高校生の教科書に載せてもいいような内容ですね。

鷺坂;はい、わかりやすい表現には心掛けました。それに一通りの環境法を通覧できるものにしようと思いましたので、いわゆる環境法と呼ばれるものは一応説明してあります。これからも様々な環境問題がでてくると思います。PM2.5などもメディアなどで注意喚起し始めたのはつい数年前からですよね。環境問題は経済問題とも常に関係してきます。新しい環境問題に直面したときにどのように向き合って、解決していくのか、そういう手がかりになればと思って書きました。皆様も手に取っていただければ、幸いです。

岩瀬;ところで鷺坂さんのご経歴を伺いたいのですが。

鷺坂;私は1978年に大学を出て当時の自治省という役所に入省しています。今の総務省です。自治省では地方公共団体で勤務して実地の地方行政を体験するということが一般的ですので、私も大阪府、大分県、岡山県に勤務しています。2001年に中央省庁の再編がありましたが、その時に環境庁が省に昇格して環境省になりました。当時「21世紀は環境の時代」などとも言っていました。多くに人材が環境省に集められましたが、その一人として環境省へ移りました。

岩瀬;自治省ではどのようなお仕事をされましたか。

鷺坂;役所にはいってから地方勤務が10年ほどありますが、中央省庁再編前の自治省では税務局(今の総務省自治税務局)と選挙部(今の総務省自治行政局選挙部)で比較的永く働いています。税務局では地方税制の企画立案に、選挙部では政治資金制度や政党助成制度の企画立案に関わりました。

岩瀬;思い出深い仕事はありますか。

鷺坂;役所の仕事は組織で行いますので、一人でこれをしたということではありませんが、思い出の深いものはあります。一つは税務局で関わった固定資産税の土地評価の均衡化適正化問題です。固定資産税の土地評価は、相続税と違って土地を保有し続けるという前提で評価します。税金を支払うのに財産を処分してでも支払え、というものではなく、その財産を保有し続けることを前提にそこから上がる収益から税金を支払うということです。土地評価が地目によって違うのはそうしたこともあるからです。したがって主に都市部の市街地での評価ですが、売買実例価格からかい離するような状況がありました。そのことが1990年ころのバブル期に、土地に対する投機的需要を呼んでいるのではないか、地価高騰の一因ではないか、とされたのです。さまざまな議論がありましたが、結局1994年の評価替えから地価公示価格の7割をめざして土地評価することとされました。評価事務の一環に不動産鑑定も導入しました。しかし評価替えによって突然税額が何倍にもなるということでは住民が納得しません。段階的に税額に反映できるような極めて複雑な負担調整措置を導入したことを覚えています。

岩瀬;土地の評価という不動産取引にも関係する仕事もされたことがあるのですね。

鷺坂;固定資産税の土地評価という観点ですが・・

岩瀬;そのほかどのようなお仕事が印象に残っていますか。

鷺坂;そうですね。やはり政治改革と呼ばれる一連の法改正の一部に関わったことでしょうか。当時、いわゆるリクルート事件が発覚して、政治改革が政治課題の一丁目一番地でした。政治家個人ではなく政党を中心とした政治、かつ政権交代可能な政治制度にしようというものです。具体的には政権を作る衆議院に小選挙区制を導入すること、政治資金の流れも政党中心にするということです。私は政治資金課の課長補佐という立場で関わりましたが、政治資金の透明化等規正を強化する法案や政党助成法案の立案に関わりました。

岩瀬;政治の在り方を決める重要な課題に関わられたのですね。環境省には2001年に移られていますが、いかがでしたか。

鷺坂;はじめに環境計画課長という職に就きました。環境基本計画の立案やフォローアップ等をする仕事です。環境基本計画はある意味画期的な計画です。閣議決定しますので、各省庁と調整はしますが、各省庁はそれにしたがってそれぞれの施策を進めなければならない、というものです。計画によって政府全体の施策について環境配慮を組み入れていくことができます。新任課長にそこまでの仕事を任せるということはある意味懐の深い役所だなというのが第一印象でした。

岩瀬;水大気環境局長をされていますが、大気汚染対策や水質汚濁対策のお仕事も多かったのですか。

鷺坂;そうですね。環境省に約12年勤めましたが、そのうち大気汚染、水質汚濁、土壌汚染等のいわゆる旧来型の公害行政に5年間携わりました。揮発性有機化合物の規制やブルドーザー等のいわゆる働く車の排ガス規制などの法改正や制定に関わりました。局長になって最初の仕事は公害管理の見直しをしたことです。事業場からの排ガスや排水は測定値を記録することで規制値以下であることの担保が図られますが、虚偽記載等の不適正事案がいくつか発覚しました。公害防止に従事するベテランの人材が卒業する一方で、企業が効率化を追求しすぎたためといいます。そこで、もう一度公害管理を見直そうということで法改正して測定値の記録に罰則を設けるとともに、公害管理の徹底等の通知も発出しました。法施行前に企業側の自主的な調査で測定値の記載ミス等の是正が図られたと思います。

岩瀬;鷺坂さんの対応が功を奏したということですね。もう5年以上経ちますが、東日本大震災対応でも大変だったのではないですか。

鷺坂;環境省は災害対応というと一般的には災害廃棄物の処理が主な任務ですので、発災当初というよりも一段落してからの対応ということになります。しかし、東日本大震災では原子力発電所の事故が発生し、これまで全く想定していなかった放射性物質による環境汚染が発生しました。当初は想定外ということでどこの役所が環境汚染に対応するのかわかりません。環境基本法でも放射性物質による汚染は原子力基本法とその関連法によるとされ、また大気汚染防止法や土壌汚染対策法、廃棄物処理法でも放射性物質による汚染は法の対象外でした。しかし、現実問題としてどこかの役所が対応せざるを得ません。そこで、放射性物質汚染対処特別措置法という法律を成立させて環境省が中心になって対応することになりました。その対応を私の局ですることになったのです。当時、環境省の職員は2000人弱で新たな業務に対応できる体制ではありません。他省庁や地方公共団体からも応援をいただきならが、汚染土壌の除染や処理等の業務を行う体制整備に努めました。

岩瀬;環境関係でもさまざまな仕事があるのですね。ところで小澤先生とは以前から親しいと伺っていますが、どのようなご関係ですか。

鷺坂;ここでは「君」と呼ばせていただきますが、小澤君とは大学1年、18歳のときからの友人です。たまたま同じドイツ語のクラスに配属され、気が合ったのだと思いますが、何人かの仲間と英会話等の選択科目で同じ科目を取ったりしました。授業の後は毎日のように麻雀をしたり、女子大生との合同ハイキング等も一緒に参加したりしました。駒場時代はまだ法律の授業は本格化していませんが、試験の前に集まって教養科目の傾向と対策等を話し合ったこともあります。大学3年になると法学部のある本郷に移りますが、法律の勉強を一緒にしました。小澤君は大変優秀で、いつもなかなか思いつかない重要なポイントを指摘していたと記憶しています。実際、彼は司法試験では数少ない現役合格組ですし、優秀な成績で合格したと伺っています。

インタビュー 鷺坂 長美

岩瀬;小澤先生は本当に優秀な方なのですね。最後になりますが、今回鷺坂さんは当事務所の顧問に就任されるということですが、なにか抱負のようなものはありますか。

鷺坂;環境関係の法律はどれも発展途上にあると思います。現在ある課題にすべて対応できているとは限りません。また、環境問題はこれからもいろいろな課題がでてくると思います。そういった課題解決には、もちろん科学技術の進歩ということも必要ですが、社会的問題になれば法的解決が重要です。もちろん法律相談は弁護士にしかできませんが、これまでの環境省での行政経験を踏まえ、環境分野で何かのお役に立てれば、と思っています。

岩瀬;ありがとうございました。