「自動車NOX・PM法」顧問鷺坂長美

「自動車NOX・PM法」

2019年9月2日
鷺 坂 長 美

 今回は、自動車NOX・PM法に関する思い出です。法律の正式名称は「自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法」です。長い名前がついています。新車の排ガス規制を定める大気汚染防止法では交通集中による大気汚染が防げない、ということで1992年に制定された法律です。大都市を中心とする地域において、既に走っている使用過程車も含め規制対象とするものですので、基準を満たさなければその地域で走ることはできず、ある意味大変厳しい仕組みです。
 当初は窒素酸化物(NOX)のみを対象とする法律でした。自動車の排ガス規制については、NOXは1973年ごろから規制対象となっていましたが、粒子状物質(PM)についてはまだ規制対象外でした。PMの規制は遅れて1994年になってからです。ディーゼル自動車の走行にとって、NOXとPMは燃焼をよくしてPMを減らせばNOXは増える、逆にNOXを減らすように燃焼を調整すればPMが増える、という関係にあることもあったようですが、上司の話では当時の社会的な関心がNOXに向いていたこともあるようです。1978年の二酸化窒素の環境基準の緩和が影響していたのかもしれません。
 いずれにしても、NOXに加え、PMもこの法律の対象になったのは2001年改正からです。私が担当局の総務課長に就任したのが2003年の7月でしたが、その前年の10月にPM関係の規制部分が施行されたこともあり、着任早々、トラック関係の団体などさまざまな団体から規制緩和の要望を受けるということがありました。
 直接対応したわけではありませんが、ある地域の消防団の消防車で規制対象になるため走れなくなるということがありました。いろいろ話を聞いてみると大変伝統のある消防団で地域の防火活動に大変活躍していた消防車でした。型式が古いので、なんともなりませんでしたが、その後新しい消防車を地元の方々が寄付を出しあって購入したということを聞きました。私自身環境省の直前は消防庁の課長をしていましたので、地域の防火に対する熱意には感服したものです。
 一方、同じ行政の立場ではありましたが、東京都からは大変厳しい批判をいただきました。法律作成過程でのコミュニケーション不足が原因ではないか、と思われます。規制方法についてですが、東京都は圏域に入ってくる車に規制をかける、流入車規制をすべしといいます。そうかといって圏域の境界に関所を設けるわけにもいかず、法制的に難しい問題があり、結局、法律では自動車の使用の本拠が圏域内であれば規制対象とするということになりました。車検で担保できるからです。圏域内を走行する車の9割は使用の本拠が圏域内というデータもありました。
 東京都は独自に条例を制定して流入車規制をはじめました。多くの職員を「自動車Gメン」として配置し、流入してくるトラックを抜き打ち検査するのは確かに大変だったと思います。当時東京都は「国の7つの怠慢」という表現を用いて広報していました。大気をきれいにしたいという思いは同じなのに、少々切なく思ったものでした。PM規制が遅れたことや使用過程車への対策が十分ではないこと、不正軽油問題などを指摘されていたと思います。近年、これらの点に関する批判はあまり聞かなくなりました。法律による車種代替のみならず新車の排ガス規制もどんどん厳しくなってきています。流入車で基準を満たさない車は少なくなってきていると思います。