「放射性物質汚染対処特措法 (2)」顧問鷺坂長美

放射性物質汚染対処特措法 (2)

2019年4月18日
鷺 坂 長 美

 今回も前回に引き続き放射性物質汚染対処特措法の成立過程についてですが、廃棄物処理にかかわるお話です。
  大規模地震のような大災害が発生した時には、政府全体で総理大臣を本部長とする災害対策本部が設置され、人命救助等の活動が初動対応として行われます。その中で環境省としては、災害にかかわって大気汚染や水質汚濁が発生していないか等をモニタリングすることもありますが、大きな役割としては地震などで発生した災害ガレキ(災害廃棄物)の処理です。東日本大震災でも災害ガレキの処理のために多くの環境省職員が現地に派遣されました。地元自治体と連携をとって、災害ガレキの処理、仮置き場まで運び、仮設の焼却炉等で焼却し、最終処分するまでの工程、を一刻も早く行い、被災地の復興につなげていこうということです。
 しかし、東日本大震災では、災害廃棄物の処理に大きな問題がありました。原子力発電所の事故により飛散した放射性物質によって汚染されたものがあったからです。前回のコラムでも少々触れましたが、これは廃棄物処理法の廃棄物ではありません。災害ガレキではあっても廃棄物処理法の適用外ということになります。もちろん、法律上の廃棄物でなくてもごみを片付けることはできますが、その費用をどうするのか、どのような方法で処理するのか、など枠組みがないと実際に作業する自治体も困ってしまいます。福島県内の災害廃棄物についても、仮置き場まで集めてきたところで、作業を中断し、環境省で集められた廃棄物周辺の空間線量を測定して、安全性を確認してから作業を再開する、ということをしていました。私が担当していた局でも、5月のゴールデンウィークを返上して各地の測定のお手伝いをした記憶があります。
 また、これまでリサイクルに回され処理されてきた稲わら、たい肥、浄水発生土、下水道汚泥、焼却灰の処理も滞ることになります。汚染されたものはリサイクルに回せないからです。
 原子力災害にあたっては災害対策基本法の特別法である原子力災害特別措置法により原子力災害対策本部が設置され、本部長はそれぞれの行政機関に必要な指示ができる、とあります。しかし、それまで放射性物質を扱ってきた放射線障害防止法や原子炉等規制法では想定外ということで対応できません。そうかといって環境省としても何もしないわけにはいきませんから、便宜的に「放射性物質に汚染されているおそれのある廃棄物」ということで対応することになりました。ただ、そういった廃棄物が例えば不法投棄されたときに取り締まれるか、という問題は残ります。国会でも問題になりました。法的な手当てが必要です。
 5月ごろには、除染のための放射性物質汚染対処特措法を制定することになっていましたので、その立案にあたり、廃棄物の問題も含め整理することになりました。具体的には、当時の避難地域等の災害廃棄物と8,000Bq/kg以上の廃棄物は国が直轄で処理することとし、それ以外のものは廃棄物処理法の適用を受ける、とされました。8000Bq/kgとは処理するときに受ける追加の被ばく線量が安全とされる数値から定められています。また、この法律により、これらの廃棄物の不法投棄も禁止されました。
 法律的な枠組みが整理されたことで、福島県内の放射性物質に汚染された廃棄物は100,000Bq/kg超のものは中間貯蔵施設で、8,000Bq/kg超100,000Bq/kg以下のものは富岡町にある特定廃棄物埋立処分施設で、それ以下のものは一般の管理型処分場で保管または処分することとされました。8,000Bq/kg超の廃棄物の多くは現在でも各地の仮置き場等で保管されていますが、処理が進むことが期待されます。
 

(特定廃棄物埋立処分施設の情報館「リプルンふくしま」2018年8月オープン)
 (出展 環境省ホームページ)
(http://shiteihaiki.env.go.jp/tokuteihaiki_umetate_fukushima/reprun/about/)