「放射性物質汚染対処特措法(3)」顧問鷺坂長美

放射性物質汚染対処特措法(3)

2019年5月12日
鷺 坂 長 美

 先日、大熊町の避難指示が、帰還困難区域以外の地域で解除されたと報道されていました。東京電力福島第一原子力発電所の立地自治体で初めてということです。大熊町については、事故後1年ぐらいのときに中間貯蔵施設等についての住民説明会に当時の担当局長として出席し、様々なご意見をお伺いしましたが、今回、役場も8年2月ぶりにその地域で業務が開始され、発電所所在自治体における復興が始まるということでも大変期待されます。
 放射性物質汚染対処特措法の検討が行われているときですが、除染にともなってでてくる除去土壌や廃棄物の処分をどうするか、ということが議論になりました。汚染された表土を削り取れば除去土壌が発生しますし、また、落ち葉や水路等の汚泥を集めれば廃棄物となります。そこで、廃棄物処理法にならって、これらの収集・運搬・保管・処分は環境省令に定める基準によることとしましたが、処分するためには施設が必要だろうということで、法53条には「国は、・・汚染廃棄物等の処理のために必要な施設の整備その他の・・必要な措置を講ずるものとする」という規定が入れられていました。
 法律が公布施行されたのは2011年8月30日ですが、実はその前8月27日に当時の政権から中間貯蔵施設を建設しそこで保管しようという考えが公表されました。廃棄物処理法には中間貯蔵という概念はありません。ただ、金属等の有害物質と異なり、放射性物質には半減期があります。時間とともにその放射能が減衰する(放射性物質が半分になるまでの期間で、今回の事故で飛散したといわれるヨウ素131が8日、セシウム134が2年、137が30年)ということですから、最終処分までに中間的に保管することもありうるのか、と思ったものでした。少々後付けですが、法53条の施設のうちだろうということで、早速、中間貯蔵施設についての考え方をまとめる作業にはいりました。
 10月29日には「基本的考え方」を公表しました。主な内容は、①施設の維持管理は国が行う、②仮置場の本格搬入開始から3年程度を目途として施設の供用を開始するよう政府として最大限努力をおこなう、③福島県内の土壌・廃棄物のみ貯蔵対象とする、④中間貯蔵開始後30年以内に福島県外で最終処分を完了する、というものです。福島県内の市町村にも説明しました。市町村では除染土壌等の仮置場の確保に困難を極めていたので、②について質問が多くあったと記憶しています。仮置場の整備費は全額補助されるのか、とか、3年で供用開始されれば仮置場は元通りに使えるのか、などです。除去土壌等は中間貯蔵施設ができるまでは仮置場での保管が求められますが、仮置きでもフレキシブルコンテナ等に入れ遮水シートで覆うなどして飛散流出を防ぐとともに、場所によっては遮蔽土嚢で周囲を囲い放射線を遮る措置も必要となります。
 ④の担保手段として法律に書けないか、ということも課題になりました。これは中間貯蔵施設を建設したのちの管理をどうするか、とも関わる課題でした。環境省の所管している特殊会社として日本環境安全事業株式会社という会社がありました。これは、永年処理ができずに保管されていたPCB廃棄物を国の責任で処理しようといういわゆるPCB特措法とともに設立された会社で、全国5か所の事業所でPCB廃棄物を処理していました。少々乱暴な議論だったかもしれませんが、この会社が技術的にも高度な施設の維持管理をしていること、地元の理解も得ながら事業を進めていること、行革の時代に新しい特殊会社はつくれないことなどから、この会社に維持管理を行ってもらうことになりました。特殊会社ですので、設置法の改正が必要です。法律の名称、会社の目的、事業の範囲等を改正するとともに、国の責務として第3条に「中間貯蔵開始後三十年以内に、福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずるものとする」と規定されました。現在の会社名は中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)です。
 中間貯蔵施設では、除去土壌については受け入れ・分別施設で放射能濃度に応じて分別し、土壌貯蔵施設で埋め立てて貯蔵することにし、廃棄物等については仮設の焼却施設と灰処理施設で処理したうえで遮蔽効果のある建屋に貯蔵容器に入れて貯蔵することにしています。その進捗状況も環境省で公表されていますが、今年の4月現在で、用地取得については全体面積1600haのうち約88%ですでに契約済等(公有地を含む)となり、それぞれの施設等についても建設工事の着手等が進められているということです。また、除去土壌等の仮置場からの輸送についても、1295か所の仮置場のうち324か所で搬出を完了しています。仮置場といっても除染土壌等が近隣に山積みになっているようでは、やはり復興の足かせにもなりかねません。安全を確保のうえ慎重な搬出が必要ですが、一刻も早い仮置場からの搬出が望まれます。

(受け入れ・分別施設 第1期大熊工区)
(出展 環境省ホームページ http://josen.env.go.jp/chukanchozou/about/