「庭の生態系と雑草・害虫」顧問早水輝好

コラム第5回

庭の生態系と雑草・害虫

2020年8月24日
早 水 輝 好

 我が家の庭には芝生がある。17年前に家を建てた時、車がなくても1台ぐらい駐車できるスペースを確保した方がよいと考え、家の南側の園芸用地に囲まれた空間をどう整備するか検討し、コンクリートではなく芝生にすることにしたのである。緑の方がいいという理由に加え、単純にコストが安かったからだが、結果的には正解で、もしコンクリートにしていたら照り返しで夏の暑さが倍増していただろう。
 芝床を敷いてもらったのが2月で、ご近所のご隠居に「この時期に張ってもだめだよ」と言われたが何とか芝生になった。庭全体の園芸は家内の担当だが、芝の管理は力仕事もあるので私が主に担当することになり、春先のエアレーション、夏と秋の芝刈りに加え、除草剤は使いたくないので雑草も週末毎に抜いていた。しかし何年かたつとクローバーをはじめとする雑草の繁茂は私の管理能力を上回り、ある年からクローバーを抜くのをあきらめた。かくしてクローバーは「雑草」ではなくなり、我が家の芝生は「芝・クローバー混成草地」になった。
 クローバー以外の雑草はなるべく抜くようにしているが、日陰は芝が衰えてシダ類が生えてくるし、隅っこではドクダミも出てくる。私はどうもドクダミが嫌いで、見つけたら必ず抜くが、白い花がきれいだという人もおり、お隣をはじめドクダミが群れて咲いている家も何軒かある。同じドクダミでも雑草になるかどうかは紙一重ということになる。(ちなみに、家内は通りがかりの人に混成草地を「きれいな芝生ですね」と言われ、どこの話?と思ったというから、芝生のきれいさの感じ方も相対的なもののようだ。)
 我が家のフェンスの一部にはブラックベリーがからませてあって毎年実をつける。例年春に青虫がついて新芽を食べてしまうので気をつけていたら、今年は小さい蓑虫をたくさん見かけた。何だろうと思っていたらどうも葉が食べられているのでよくよく見ると、蓑虫が移動して幼虫が顔を出して食べているではないか! びっくりしたがブラックベリーに農薬を撒きたくなかったので、物理的に2/3ぐらいを除去して庭の別の場所などにばらまいた。ところが、どうやって移動したのか知らないが蓑虫が2階ベランダの物干し場に登場し、これを見つけた家内が「私の庭にこんな虫はいらない!」と宣言、かくして蓑虫は「害虫」になった。残っていた虫はすべて除去し、今度は近所の公園に持って行った。
 今年はハチをあまり見かけず、ハチへの有害性が懸念されているネオニコチノイド系農薬の影響がこのあたりにも出ているのかもと思った。ネオニコチノイド系農薬の用途は幅広く、日本では水田でもカメムシ防除のためによく撒かれているらしいが、カメムシを防除する理由は、斑点米ができて米の等級が下がり高く売れなくなるからだという。収穫や味ではなく見かけの問題なのである。このため、環境NGOは、ネオニコチノイドの使用を減らすには斑点米で価格が下がるような制度をなくすべきだと主張している。人間が作った制度のためにカメムシが害虫になっている、ということになる。
 前回のコラムに「生活環境動植物の保全」とは「害虫以外の身の回りの生物を守るということだ」と書いたが、実はどれが害虫でどれが雑草かは結構人間の勝手な分類だということがわかる。「タッチ」で有名なあだち充が唯一描いた時代劇風漫画(虹色とうがらし)で、農家の重労働を減らすために魔法の粉(農薬)を撒きたいと言っている弟のところに、主人公の少年がいろんな虫がはいった虫かごを持ってきて「駆除してもらおうか?害虫だけをな!できねえだろ。」と言うシーンがある。人間にとって都合のよい生態系にしてしまうことは簡単にはできないのである。
 ブラックベリーの葉は今年はあまり茂らなかったが、花は結構咲いた。ハチの代わりに羽アリがやってきていてめでたく受粉し、むしろ例年より多く実って美味しくいただいた。逆にゴーヤーは葉が茂って日陰を作ってくれたが実が少なく、例年なら10~20個収穫するのだが今年は4個しかとれていない。ハチだけでなく梅雨が長かった影響かもしれない。鉢植えのアジサイも今年は葉が茂っただけで花が咲かなかった。その代わり、昨年末にくっついていたカマキリの卵がかえったらしく、春先に小さなカマキリをいっぱい見かけた。前述の蓑虫も、別の植物の中に捨てられると雑食ではないから生きていけないだろうと思っていたのだが、後日別の木にくっついているのをいくつか見つけ、昆虫も結構サバイバルできるんだと思ったら罪の意識が少し軽くなった。
 庭の生態系は庭の持ち主の趣味でどうにでもなりそうだが、実はどうにもならない部分も多い。たくましい生態系に甘えてはいけないかもしれないが、庭の生態系ぐらいであれば、持ち主の管理能力より生態系の復元力の方が大きいのかもしれない。復元力を壊さない程度の管理で、生物と共生していきたいものである。

 

     
  蓑虫(何の幼虫かは不明)   ブラックベリーの花と羽アリ   ブラックベリーの実
          (最初は赤で熟すと黒くなる)