「尾花」弁護士小澤英明

尾花(2019年8月)

2019年8月28日
小 澤 英 明

 南千住に有名なうなぎ屋「尾花」がある。私の好みでは、日本一美味しい。まだ柏に住んでいた頃だから、20年くらい前から毎年訪れている。ここの特徴は、予約がきかないことで、土日は1時間半くらい待つ覚悟が必要である。この不便さは変わらないが、近年、大きな変化が三つあった。一つは、数年前に男女の区別のないトイレから男女の区別があるトイレに変わったことである。これでミシュラン一つ星を獲得した。また、昨年から、それまでの座敷で座る形式から、座敷にテーブルの形式に変わった。三つめは、鰻の価格が急激に高くなったことである。
 今は、うな重は、普通盛りの5300円と大盛りの6300円しかない。これではなかなか手が出ない。このほか、「うざく」や「うまき」も注文したくなる。ほかに、あるのは、鰻の白焼き。また、鰻のかば焼きのタレで焼いた焼き鳥が2本で1200円。以前、娘が一緒だったとき、娘が「焼き鳥!」と勢いよく頼んだのだが、「一二〇〇円」が縦書きで書かれたお品書きを300円と読み間違えてのことだった。ほかにビールやお酒を頼むと、今や、高級フレンチのディナー並みになる。それならば、1時間半並んでいる人たちがお洒落な人たちかと言うと、これはどう見ても、そこらにたくさんいるおじさんおばさんたちで、風采は上がらない人ばかりである。ただ、ずいぶん前の夏、少し離れた席に女優の沢たまきさんを見かけた。
 1時間半も待たせるのだから、もっと、職人さんや仲居さんを増やせば、売上も上がるはずだし、大きな収益も上げられるはずである。なぜ、そうしないのか。これは謎である。実際、テーブル式になって、極端に収容人数は減ったと思われる。二人用テーブルが11脚しかない。二人以上の客の場合、このテーブルをくっつけるだけのように思われるから、満席でも22人が限度である。昼2回転、夕方3回転のようだが、いつも満席でも1日110人しか入らない。座敷に座っていた時は、もっと多くの人が一回に入っていた。働く人の数も減ったように思われる。なぜだろう。
 先月、まだつゆまっさかりの3連休、尾花に妻と出かけた。テーブル席になってはじめてである。夕方の部は、16時から19時30分。妻が最近の状況をネットで検索し、1時間半前に行かないと最初の11組には入れないと判断した。私も賛成し、14時半に着いた。道沿いのシャッターの外に待たされる。6組目だった。15時45分には既に夕方の部の3回転の人々が並び終え、開店前に「売り切れ」の案内が戸口に出た。私たちの後ろのおやじは、「早くシャッター開けてくれよ、いつまで待たせるんだ。殿様商売だな。俺の会社よりひどい。俺の会社もお茶くらい出すよ。」とぶつぶつぶつぶつ。5分前にシャッターが上がったときは周囲から歓声。自信がないとここまでできない。やっと席に着いた時の妻のうれしそうな顔と言ったら、これ以上の幸せはないという顔をした。どこかでこの顔を見たぞと思い出してみると、それは、かつて福岡の柳川でうなぎ屋に入って鰻を食べたときの顔だった。よほど鰻が好きなのである。

https://tabelog.com/tokyo/A1324/A132401/13003509/
(食べログ 尾花)