「アンドリュー・カーネギー」弁護士小澤英明

アンドリュー・カーネギー(2019年1月)

201年1月30日
小 澤 英 明

 カーネギーホールのカーネギーであり、「人を動かす」というタイトルで自己啓発本をいくつも出しているデール・カーネギーではない。紛らわしいが、アンドリュー・カーネギー(以下、「A・カーネギー」という)の自伝こそは自己啓発本と呼ぶにふさわしい。中公文庫から出ており、元気をもらえる。自伝好きの私は、この本もかなり以前に購入しているが、書棚に眠っていた。しかし、昨年、取り出して読み直した。
 A・カーネギーは、スコットランドの貧しい家庭から一家でアメリカに渡り、一代で鉄鋼王となった人である。その生き方はセルフヘルプの精神が徹底して、気持ちがいい。少しも卑屈さがない。しかも隣人愛にあふれている。スコットランドは、アダム・スミスを輩出した国である。1992年、私はアメリカ留学の帰りの夏、ロンドンの法律事務所に1か月半ほど居候させてもらった。その機会にエジンバラまで旅行し、アダム・スミスの旧住居を訪ねたことがある。両親と一緒だったが、93歳になった私の父親は今もそのエジンバラで購入したベストがお気に入りである。私は、そのロンドンの法律事務所(Linklaters & Paines)でも親切にしてもらった。料理を除くと、私はイギリスのことが好きである。夏以外の経験がないので、夏に行ったからだよと言われかねないが、ニュートンとかロックとかアダム・スミスとか、このような多くの偉人を輩出した社会には、その輩出を可能とした何かがあると思う。
 一昨年、西村あさひを辞めて独立しようと思ったときに、独立はどうすればうまく行くのかを考えた。起業して成功された親しい人にまずアドバイスを求めた。そのアドバイスがこれまでのところ一番効を奏しているように思える。ただ、もともと、私は本が好きなので、経営学の基本書のようなものを、この際いくつか読んでみようと思った。書店の大きなスペースをとって、経営学と称する本がこれほどまでに出ていることを初めて知った。ドラッカーなどの定番のものから、近年はやりのブルー・オーシャン戦略の経営論まで、ひととおり有名なものは読んでみた。中で、一番気に入ったのは、ジム・コリンズのビジョナリー・カンパニーもので、メルクという企業に関心をもった。その後、起業家の自伝ものを読みあさった。その流れで、A・カーネギー自伝を読んでみたというわけである。
 年末に今年の抱負をA・カーネギー自伝から引っ張ってこようと思って、探したら、A・カーネギーが若いときに設立した機関車製造会社の標語が良さそうに思えた。―最高のもの以外にはなにもつくらない。― うーん、これだ。しかし、英語の原文が気になって、大晦日に池袋のジュンク堂に原書を探しに行った。すると、ありました。その最上階に洋書部門があって、その一つの本棚が何と上から下まで全部SELF HELP(日本で言う自己啓発本のような本が多い。)、その隣の本棚がまた全部BIOGRAPHY、その中にあった。“Make nothing but the very best.”